【インタビュー】NPO法人ソルウェイズ代表 宮本佳江さん【前編】 医療的ケア児の居場所を。
2019.08.31 02:00
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【医療的ケア児の居場所を。デイサービスを設立したきっかけ】
『医療的ケア児』という言葉を聞いたことがあるだろうか?
医療的ケア児とは、気管切開をしていて痰の吸引が必要、口から食事をとれない場合に経管栄養で栄養をとるなど、生活で医療が必要な子どもたちのこと。
2016年に医療的ケア児の存在が初めて法律に明記されたが、支援は充実しているとはいえず、現実には、医療的ケアが理由で学校に通えなかったり、学校に通わせるために家族が重い負担を強いられたりしているケースが多い。
「ベッドの上で天井を見て過ごすだけではなくて、この子たちにも、私たちが当たり前に20代青春みたいに過ごしてきたものがあるのではないかと思うんです」
医療的ケア児のデイサービスを提供するNPO法人ソルウェイズ代表 宮本佳江さんはこう語ってくれた。
彼女は元薬剤師。ご自身が2児の医療的ケア児の母親でもありながら、医療的ケア児のための施設を運営している。
2人の医療的ケア児を一人で育てながら、当事者の家族の支援のための施設を運営する彼女。新しい施設もオープン予定で、医療的ケア児向けにはまだ少ない入浴設備の導入工事も進め、クラウドファンディング も実施中だという。
医療的ケア児の母親であり、医療的ケア児のためのデイサービス施設ソルキッズを運営しているNPO法人ソルウェイズ代表理事である宮本さんに弊社代表(柴田)がインタビューをした。【前編・後編の2部】
医療的ケア児について子供達の親が亡き後までのその先までの構想を抱く宮本さんのお話は、女性の働き方、障害児の取り巻く環境、社会の支援の問題、多くのことを考えさせられる。
医療に携わる方にもそれ以外の方にも、是非現状を知っておいていただきたい。
行き場をなくした医療的ケア児とその家族のための行き場
Q.一言で言うと、宮本さんの運営するソルキッズはどのようなサービス(施設)ですか?
急性期医療で助からなかった命が、今の時代だと助かって成長発達できるようになりました。そして、地域で生まれ育った家でずっと生活していくことができるのが理想的ですが、医療的デバイスが付いているということで行き場をなくしてしまう子供と家族がいます。その行き場を作ろうと、当事者のお母さんたちで始まった活動を事業にしたのがソルウェイズです。
未就学の時代の先の自分たちの行き場がなかった
医療的ケア児は、未就学の時代は小児在宅医療の先生が運営している施設に通えたがその先がなかった。生まれたばかりの時は、より体調を崩しやすいし手厚さが必要。
しかし、体力もついて就学期になった未就学の後の場所がない。子供達が必要なのは医療だけではなく、それ以外の力も必要。ライフステージが変わると必要な支援も変わる問題に直面した経緯から施設の立ち上げを決意しました。
医療的ケア児の保護者は学校も高校卒業までずっと付き添い
学校はお母さんたちも小学校入学から高校卒業まで付き添いしなくてはならない。日中の未就学児のサービスだけではなく学校が終わった後のサービスも提供しています。
学校の付き添い不要のところもありますが、病気や障害が重度だったり医療的ケアがあると付き添いが必要です。
本来なら保護者が働いていれば学童保育だが、子どもに重い障がいがあったり医療的ケアがある場合は学童保育には入れない。学童の代わりと考えてもいいし、毎日付き添うのは、お母さんたちも体力的にも大変なので体調が悪い時は日中からのお預かりもしています。
義務教育なので、休ませるのは気がはばかれますが、小学校から高校までと長い期間続くものなので。
子供には外の空気、友達との関わりが大切
Q. 親御さんも仕事もできなくなってしまいますし、大変ですよね。例えばオンラインの授業などになれば、家族の負担は軽くなるでしょうか?
それはそうなのですが、やはり、子供たちも子供同士の関わりというものが必要。
自分には外との関わりがあるんだっていうことや、雨が降っている時に外に出て雨はこんなものかと感じることができます。お家以外の空気に触れることも大事です。
子供の成長とともに入浴に悩む多くの家族。入浴設備の導入を決意した理由
Q.宮本さんは入浴設備のためのクラウドファンディングを実施されています(2019年7月現在)が、開始したきっかけを教えください。
今までは配偶者が入れてくれていたのですが、一人親になった今、子供が背が大きくなってくると入れるのが難しいです。ヘルパーさんに手伝ってもらって、二人がかりです。入浴させてあげられるのは、週にたった1、2回くらい。
子供はどんどん大きくなってくる。私もすごく悩んでいて。でもその悩みは自分だけではなかった。
お母さんたちのニーズとしてはデイサービスでお風呂に入れてくれたらというのがあった。実際に、お風呂を入れてくれる施設をデイサービスとして選ぶ方も多いです。
入浴サービスからスタッフ同士の交流も広がる
せっかく入浴装置があるのであれば、デイサービス利用をしているお母さんと子どもがふらっときて入浴装置を借りれる場所にすれば、お母さんたちともデイサービススタッフは気軽に顔合わせできる。ヘルパーや看護師の人も自宅での入浴介助は限界なのではと感じています。
狭い所で入れるには、常に事故の危険も常に付きまとうので。それならここにヘルパーさんと一緒にいれにこれたらいいのかなと思います。
その案を実際のスタッフに聞いたら「それはいいですね!」と言っていました。
今現在、札幌市内には2店舗作る予定で、全部の店舗でお風呂を入れる予定です。
まだ子供向けのミスト入浴は全国でも導入は少ないんです。ちなみに居宅介護のサービスはお風呂(温泉)に入りに行くことも認められています。
デイサービスから人と人がつながれば
入浴サービスにより、一人の子に関わっているスタッフさんとデイサービスのスタッフも関わることができて、そこからまた広がることができるのではと考えています。
一人の重い障がいがあるお子さんに数か所の事業所、スタッフさんが関わっている事がおおいです。
1つのサービスだけで子供の生活が回っているのではなくて、いろんな人の手で子供だけではなく、家族が生活できています。そのため、スタッフ同士の関わりがある方が情報交換にもなります。
私たちデイサービスのスタッフも、その子に関わるスタッフさんを知ることで、繋がりになります。
デイサービスから人と人がつながればと考えています。
利用者のニーズがあるサービスに報酬がつかない医療的ケア児サービスの現状
Q. 医療的ケア児の入浴設備が完成したら、社会にどんな影響があればいいなと思いますか?
今、現状は、児童デイサービスには、入浴サービスをしても報酬(補助)が入らない。でも当事者にとっては非常にニーズはあると思います。特に障害の程度が重たければより一層です。そういった利用者のニーズがあるところに報酬がつくようになればいいなと思います。
まだ入浴設備を備えた施設は少ないので、もっと色んな施設でやってみようという動きが広まればいいなと思います。
そもそも、医療的ケア児を対象としたデイサービス自体が少ないので、もっと広がるきっかけになればと思います。
宮本さんが考える育児と仕事の両立。
自身の働けなかった経験からも同じ境遇の人に協力したい想い。
私の場合は娘が医療的ケアを必要とする重度障害児でしたが、再就職の際は求人紹介会社からは小さい子どもがいると言うと、すぐ休むからという理由でなかなか紹介して頂けませんし面接すら受けられなかったことが記憶にあります。
とにかく子供に障害があろうがなかろうがこの時代なのに女性が働き続けることの難しさを実感してました。
私も、子供に障害があるということで働けなかったので、同じような境遇の方にも何か協力できたらという想いがあります。
子供に障害があろうがなかろうが、働くお母さんは誰でも大変だと思っている。
専業主婦も大変だと思いますが、子供に障害があろうがなかろうが、働くお母さんは誰でも大変だと思っています。
私は健常な子供も病気の子供もどちらも大変なことに変わりはないと思っているんです。
朝食べさせて着替えて熱が出たらどうしよう、熱が出たら早く帰らなきゃ、というのは変わらないと思うんです。
もちろん熱を出す機会が多かったり、車椅子にのっているという違いはありますが、その辺りはわたしは障害児のお母さんだから大変だとは思わないです。
働くってそもそも大変で、みんな大変な想いをしながら働いていて。あとは慣れてくるよ!っていう気もしますよね。働き始めた時は自分は子どもを置いて何やってんだろうと思うこともありますよね。
様々な医療専門職のチーム体制。
Q.宮本さんの 医療的ケア児のデイサービス施設では、どういった医療の資格の職員がいらっしゃいますか?
重心(重症心身障害)型といわれる国が定めた要件があります。
看護師(正・準)、保育士、2年以上経験がある児童指導員と、機能訓練士 PT/OT/STさんのうち1名を児童デイサービスに必ず置かなければなりません。
また児童発達支援管理責任者(子供達の療育計画を立てる役職)が必要です。
児童発達支援管理責任者という職種は親御さんやお子さんの想いを聞いて、どう言った目標に向かってこのデイサービスをお子さまが使うのかということを計画いたします。実務経験が必要なこともあり、なかなか取れない資格です。スタッフの確保が難しいです。
児童発達支援管理責任者は、経験のある方や医療系の国家資格や保育士の所持者であればなれますが、さらに国の要件として、5年以内に研修を受けるなどが必要。私も取得予定です。
チーム体制で医療的ケア児のケアを計画。家族・母親の心理的なケアも
ソルキッズのスタッフの役割としては理学療法士さんの力もとても大きいと考えています。
喀痰吸引の必要のある児童は、呼吸機能が弱く、たんがつまりやすいです。
理学療法士さんは、たんの吸引や、機能訓練により、子供たちの体調安定に務めてくれています。
作業療法士も2名ずつ、療育の計画をたて、保育士が立てた計画に対してもプランをたてます。
その他の看護師さんも医療的ケアの合間に専門スタッフも、医療的ケアの合間に子供達の相手をしたり、写真をとったりなど、何でも取り組んでくださっています。
Q. お母さんたちの心理的なケアもあるのですか?
はい、複数名いる専門職は担当制にしていて、何人か集まってチーム体制で親御さんと面接してお話を聞く機会を設けています。また、職種間でも共有ができるようにしています。
医療的ケア児の子をもつ親も活躍できる職場。
Q.宮本さん自身もご自身のお子さんを職場に預けながらお仕事をされていますが、働き方で工夫していることを教えてください。
石狩の提携している事業所では、スタッフの託児所を併設しております。
看護師さんで8ヶ月の子供を預けて働いている方もいらっしゃいます。ニーズに応えて今試験的にやっています。
今後は企業内保育も考えていて、そこでも、医療的ケア児も預けて働けるように考えています。
今事業所で、障害の子をもつ当事者のお母さんも、資格がある方は積極的に雇用して働けるようにしています。自分の子供を一緒に連れてきて、ここに預けて働けるようにしています。ただ、仕事とプライベートは分けもらうようにも決まりにしてやっています。
チーム制は、他のお子さんとのチームにしますが、お母さんとの時間も大切だと考えているので、なるべく周りのスタッフも配慮しつつと工夫をしています。
障害をもつ子の親も他に貢献したい気持ちが大きい
医療的ケア児を子にもつ親御さんからの問い合わせもよくきます。
現在は、医療的ケア児をもつスタッフは、看護師2名 保育士1名 事務スタッフ1名がいます。
自分のお子さんが障害があるから働き場がないという理由の他に、自分も何か他に貢献したいという気持ちがすごく大きくて、あとは、私の活動に共感してくれて一緒にやりたい何か力になりたいと言ってくれる方が多いですね。とてもありがたいです。
医療職の活躍の場としての医療的ケア施設
医療的ケア児のデイサービスは、医師が不在の中で、専門職が自分の専門性をもって発揮していく場所。
でも、まだまだ医療職の方に知られていません。
子供に関わったことがない職種の方でも、関わっている方でも、機会があれば、自分たちの地域に医療的ケア児の施設がないか調べてみて、是非見にいってみていただきたいです。知っていただきたいです。
宮本さんが実施していた入浴設備のためのクラウドファンディング はこちら
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