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医療的ケア児と都立特別支援学校の看護師、その働き方とやりがいとは

2020.08.26 09:00





 

 

みなさんは、『医療的ケア児』という言葉を知っていますか?

 

実は、日常的に医療的ケアが必要な児童生徒等のこと『医療的ケア児』と呼びます。病院以外の教育機関でも、学校看護師をはじめとした医療スタッフの力を必要としている施設が沢山あるのです。

 

しかし、学校が医療職の活躍の場としては、あまり広く知られてはいないこともあり、医療スタッフ不足の問題が浮き彫りとなってきています。

 

今回は、学校看護師未経験の方にも、具体的なイメージが持てるように、東京都の都立特別支援学校における医療的ケアの実際と、非常勤看護師のやりがいについて、徹底レポートします。

 

 

医療的ケアとは何か

 

 

医療的ケアの内容

一般的に『医療的ケア』とは、医師や看護師等の免許を持つものが行う、痰の吸引や経管栄養、気管切開部の衛生管理等の医行為のことを指します。

 

学校現場における、医療的ケアには、栄養管理、呼吸管理、排泄管理等があげられますが、多くは学校看護師がケアを行っています。そのなかで、痰の吸引の一部・経管栄養の一部に関しては研修を修了し、都道府県知事に認定された教職員等も実施することが可能になりました。

 

例えば、痰の吸引に関しては児童生徒等が所有している吸引器を使用します。教職員等が行う鼻腔内や口腔内からの吸引では、咽頭の手前までの実施、気管切開部からの吸引では、カニューレ内に限ると特定行為の内容や範囲が決められています。*1

 

 

 

学校における医療的ケアの歴史

 

近年、学校における医療的ケアの必要性が重要視されていますが、その歴史について振り返ってみましょう。

 

昭和54年、養護学校の義務制が開始。平成元年頃より大都市部を中心として、養護学校における医療的ケアのニーズが高まりました。医療技術の進歩やノーマライゼーションに基づく在宅生活の広がりにより、医療的ケアが必要な児童生徒等の在宅化が進み、地域の養護学校への就学が増えたのです。

 

当初は、保護者が学校に付き添い医療的ケアを行う、または訪問教育を受けることが多くありました。しかし、保護者の負担が大きい点や、看護師を配置してほしい等の要望が出され、学校における医療的ケアの取り組みが進められてきました。

 

また、医療現場では医療的ケアの定義はなされていませんが、文部科学省は平成15年「養護学校における医療的ケア体制整備事業」で、学校における医療的ケアは、「痰の吸引、経管栄養、導尿」と定義しました。

 

平成16年には厚生労働省と文部科学省より、看護師の配置を進めることや条件付きで教職員に医療的ケアの一部が許容されることとなり、学校への看護師導入が本格化したのです。

 

平成17年には、「盲・聾・養護学校における医療的ケア実施体制整備事業」のなかで、日常的・応急的手当て(医療的ケア)と述べられ、研修を修了した教職員等に許容される行為となりました。*2

 

 

 

医療的ケア児の増加とその背景

医療技術の進歩により、全国の学校における医療的ケアが必要な児童生徒等の状況は、約10年前と比べても増加傾向にあります。そのため、看護師数も同じく増えてきています。

 

図 *3 より引用(p110)  https://www.mext.go.jp/content/1421964_3_1.pdf

 

医療的ケア児の実態としては、重症心身障害児のみならず、活発に動き回ることができる児童生徒等もいます。医療的ケア児を取り巻く環境も変化しており、従来の学校システムを再構築して、医療的ケアの状況や一人一人の教育的ニーズに応じた関わりが今後も必要です。*3

 

 

 

医療的ケアにおける看護師の業務内容

 

 

医療的ケアにおける看護師の役割

 

実際に、学校看護師にはどのような役割があるのでしょうか

 

学校現場において、学校看護師は医療的ケアの専門知識を活かし、医療的ケアを行う際に判断や助言をすることとされています。吸引などの医療的ケアだけに目を向けて実施するのではなく、教職員と連携しながら、児童生徒等を総合的に捉えて関わることが必要です。

 

また、同じく学校現場にいる教職員は、教育活動において専門知識を活かして授業を進めます。教職員も研修を修了すれば特定行為を行うこともできますが、基本的には看護師が連携・協働して、児童生徒等の成長発達を最大限に促すことが、双方に共通する役割といえます。*4

 

 

 

学校看護師と病院看護師の違い

 

次に、病院等の医療機関で働く看護師との違いについてまとめました。

 

病院の場合、治療を行う場(非日常)であり、医師の常駐や医療設備が整っている状態にあります。病気の回復のために検査や治療を行い、安全安楽に過ごせるよう援助することが病院で働く看護師の役割です。

 

しかし、学校の場合には教育や生活の場(日常)であり、医師は常駐しておらず、医療設備も限られたもので対応しています。 児童生徒等が安心安全に教育活動を受けることができるよう、援助することが学校看護師の役割です。

 

対象の安全安楽に努める点では大きな違いはありませんが、取り巻く環境はそれぞれに違います。そのため、学校現場における看護師は、看護の基本である観察やアセスメント、実施、評価という一連のプロセスを教職員と連携・協働しながら行うことが求められます。 *5

 

 

 

都立特別支援学校における医療的ケアの現場リポート

(写真はイメージです。)

日常的に 医療的ケアが必要な児童生徒の多くが通う、特別支援学校。東京都では都立特別支援学校57校中34校で医療的ケアを実施しています。(2020年7月時点)

 

 

都立特別支援学校で実施できる医療的ケア

 

都立特別支援学校で看護師が実施できる医療的ケアは、以下の10項目となります。

 

 

①吸引

②経管栄養

③導尿

④エアウェイの管理

⑤定時の薬液の吸入

⑥気管切開部の衛生管理

⑦胃ろう又は腸ろう部の衛生管理

⑧日常的酸素管理及び呼吸補助装置の管理

⑨人工呼吸器の管理

⑩血糖値測定及びその後の処置

 

 

このうち、吸引の一部・経管栄養の一部は、都知事に認定された教職員も実施できます。*1

 

 

 

 

 

都立特別支援学校における非常勤看護師の一日の勤務内容

 

※東京都立光明学園の場合。出勤時刻・退勤時刻は応相談となります。朝から夕方まで勤務し続ける必要はありません。

 

 

 

    • AM 8:30

      職員 朝礼

      放送にて全校朝礼、その後保健室内で打ち合わせ

    • AM8:45

      パルスオキシメーター、吸入器など貸し出し物品準備

       

    • AM8:50

      生徒の受け入れ

      (医療的ケア児専用通学車両(※1)等で登校する児童・生徒の健康観察、人工呼吸器確認、酸素ボンベ確認)

       

      医療的ケアを必要とする児童・生徒全員の荷物確認(吸引器一式、経管栄養物品一式、内服薬など)

    • AM9:10

      授業 教室待機

      人工呼吸器を使用する児童・生徒の見守り・観察、吸引等の医療的ケア

      吸引頻回の児童生徒の対応(教室内待機)

    • AM9:30

      水分注入(10:00、10:30)

      保護者、医師の指示書により時間は個々に対応

      導尿

    • AM10:30

      血糖値測定

      実施記録集計(都に提出)

      専用通学車両内の物品の点検・補充救急カートチェック

      個人ファイルチェック

    • AM11:00

      昼食前までに腹部の観察、薬液吸入、導尿

       

      【 11:00~13:30の間に交代で昼食休憩30分】

      6時間以上勤務する者は別に休憩15分が設定される。

       

    • AM11:30~13:30

      栄養剤注入、吸引、血糖値測定、導尿

       

    • PM12:40

      授業 付き添い

      人工呼吸器を使用する児童・生徒の見守り・観察、吸引等の医療的ケア

      吸引頻回の児童生徒の対応(教室内待機

    • PM13:45

      スクールバス第一便で下校する児童、バイタルチェック、吸引、酸素管理

       

    • PM14:30

      水分注入、保健室内環境整備

       

    • PM15:00

      導尿 、血糖値測定、水分注入、吸引

       

    • PM15:30

      全校下校準備、吸引

      スクールバス第二便乗車前健康観察

    • PM15:50

      使用物品消毒、片付け、洗濯

       

     

     

 

 

※1:都では、医療的ケアを必要とする児童・生徒の通学手段確保のため、平成30年度から、登下校時の専用通学車両(スクールバス)を運行しています。非常勤看護師は、今回主に紹介する校内での勤務のほかに、この専用通学車両へ乗車し、乗車中に医療的ケアを実施することも可能です。

 

 

実際の勤務の様子 写真(東京都立光明学園提供)

 

 

都立特別支援学校における非常勤看護師研修

 

都立特別支援学校では、非常勤看護師を対象とした研修を行っています。新規採用時の研修では、以下のような項目について学びます。

 

 

・医療的ケア児について
・医療的ケア実施体制
・児童生徒等の主な障害について
・医療的ケア項目、実施手順
・教職員と看護師の役割
・健康観察法
・学校にある医療器材

 

 

 

都立特別支援学校の非常勤看護師のやりがい

 

実際に都立特別支援学校で働く非常勤看護師の方にお話を伺いました。

 

―これまでの経歴を教えてください。

総合病院の看護師として病棟で10年以上勤務した後、結婚・出産を機に退職。数年間のブランクを経て、非常勤看護師として復帰しました。訪問看護ステーションで訪問看護師の仕事にも就き、その後に都立特別支援学校の非常勤看護師として採用されました。

 

 

―非常勤看護師として働くことになったのは、どのような理由からですか。

家庭との両立が可能な面が大きいです。パートタイムでの勤務を希望する場合、自宅から近く、週2~3日の勤務で、自分の子どもよりも先に帰宅できる点がとても魅力的でした。残業や土日勤務、夜勤、夏休みの勤務がないのもいいですよね。

 

同期の看護師や、訪問看護師として勤務していた際に対応した子どもの保護者などから、働きやすい職場として紹介されたことも理由のひとつです。常勤看護師からの指導や研修が充実しているので、育児などでブランクがあっても、医療的ケアの経験が少なくても仕事に就け、手技を高めることができます。

 

 

―学校内での仕事内容はどのようなものでしょうか。

私が勤務する学校には、パートタイムで勤務する非常勤看護師が20人以上、その他にフルタイムで勤務する常勤看護師が2人・主任非常勤看護師が2人在籍しています。全員が同じ日・時間帯に出勤するわけではなく、シフトを組んで勤務している状況です。

 

業務内容は、痰の吸引・経管栄養・導尿などの医療的ケアを主に実施しています。また、登校時の健康観察や、保護者が準備する医療的ケア関連の物品チェックを行っています。

 

実際の勤務の様子 写真(東京都立光明学園提供)

 

 

―これまでの看護師の仕事とのギャップはありましたか。

学校は医師が常駐していないことや、医療的ケアに教員が関与すること(教員も一部の医療的ケアを実施し、保護者との連絡・調整を行う)が病院とは異なり、最初は驚きました。

 

さらに、学校では個々の児童・生徒ごとに定められたマニュアル通りに医療的ケアを実施するため、吸引一つをとっても、どの程度吸引するかが細かく決められています。病院では、自分で業務スケジュールを決められる部分もありましたが、学校では授業の合間など、授業の邪魔にならない時間帯を見計らって業務を行わなければならないこともあるため、限られたなかでケアの工夫をしています。

 

実際の勤務の様子 写真(東京都立光明学園提供)

 

 

―子どもとの関わりで気を付けている点には、どのようなことがありますか。

学校はあくまで学習を行うところであり、医療的ケアを受けること自体が通学の目的ではないことを意識するようにしています。呼吸状態を含む健康状態が改善され、医療的ケア児がより快適な状態で学習に参加できるよう、常に心掛けています。

小さなことですが、授業に集中してもらうためにも、子どもの視界に入らないように見守ることも必要です。

 

 

―学校の教員とどのように連携をしているのでしょうか。

非常勤看護師は毎日勤務しているわけではないため、常勤看護師はもちろんのこと、教員との情報共有も重要です。ミーティングや連絡ノートなど以外でも、「〇〇さんは最近発作が多い」というように、教員と直接情報共有を図ることもあります。

 

しかし、教員が授業を行っている最中など、教員側から話しかけられる状況ではない場合もあり、教員の置かれている状況にも目を配りながら業務を行っています。

 

 

―どういう人が非常勤看護師に向いていると思いますか。

育児・介護との両立など、自分の生活スタイルに合わせた働き方を求めている人や配偶者の扶養の範囲内で働きたい人には合っているのではないでしょうか。医療機関の業務とは異なる点も多いため、学校特有の環境に対応する柔軟性も必要になります。学校で勤務する上で、小児看護や療育系の病院、訪問看護師の経験があればプラスになるとは思いますが、経験がなくても、指導を受ければ問題なく勤務できると私は思います。

 

 

―非常勤看護師に興味がある方へメッセージをお願いします。

学校は働きやすさ以外にも、卒業式など年間を通じて子どもの成長を間近に感じられる学校行事が多い面があります。子どもが好きで、子どもの教育現場に関わりたい人にとって学校は最適な職場だと思います。

都立特別支援学校であれば、小学部入学から高等部卒業まで、最長で12年間一人の子どもの成長を見守り続けることができます。常勤看護師は異動があるため、12年間成長を見守ることができるのは、非常勤看護師の特権かもしれません。

 

 

 

都立学校非常勤看護師 募集について

 

医療的ケア児の教育を見守る学校看護師は、やりがいもあり、残業もないため、非常に魅力的な働き方です。しかし、現場では医療スタッフ不足の問題があります。

 

この記事を読んで、医療的ケアの現場に携わってみたいと感じた方は、今後のキャリアに教育機関での勤務を一選択肢としてぜひ追加してみてください。

 

東京都では、2020年8月現在、以下の職種を募集しています。以下のリンクより、募集要項をご確認下さい。

 

 

都立学校非常勤看護師の募集詳細

 

都立特別支援学校非常勤看護師(専用通学車両乗車)の募集詳細

 

 

 

参考

参考*1 日本の特別支援教育の状況について p.105~107
https://www.mext.go.jp/content/1421964_3_1.pdf

 

参考*2 特別支援学校看護師のためのガイドライン 改訂版 p.1~2
http://jschn.umin.ac.jp/files/20101020_tokubetsushien_guideline.pdf#search=’%E7%89%B9%E5%88%A5%E6%94%AF%E6%8F%B4%E5%AD%A6%E6%A0%A1+%E7%9C%8B%E8%AD%B7%E5%B8%AB+%E5%BD%B9%E5%89%B2

 

参考*3 日本の特別支援教育の状況について p.110、p.114
https://www.mext.go.jp/content/1421964_3_1.pdf

 

参考*4 日本の特別支援教育の状況について p.104

https://www.mext.go.jp/content/1421964_3_1.pdf

 

*5  特別支援学校看護師のためのガイドライン 改訂版 p.4~6

http://jschn.umin.ac.jp/files/20101020_tokubetsushien_guideline.pdf#search=’%E7%89%B9%E5%88%A5%E6%94%AF%E6%8F%B4%E5%AD%A6%E6%A0%A1+%E7%9C%8B%E8%AD%B7%E5%B8%AB+%E5%BD%B9%E5%89%B2

 

 

 

監修 東京都教育庁

取材協力 東京都立光明学園

 

ライター 白石弓夏

看護師兼ライター。主に小児科と整形外科病棟で経験を積み、現在は整形外科病棟と小児科クリニックでパートをしながら、ライターとして活動中。看護師の働き方・キャリアに興味あり。

Twitter @yumika_shi

 

 

 

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