診察室の中だけでは患者さんたちを正しい方向に導くことはできない
2019.09.17 09:00
本サイトはプロモーションが含まれています。
世の中にあふれる、間違いだらけの医療情報への危機感から生まれたブログ「外科医の視点」は開設2年で800万超のPVを記録。本業の傍ら、「外科医けいゆう」(以下、けいゆう先生)のペンネームで、医療従事者からも患者からも信頼を得ている山本健人先生。医療情報サイトの執筆やYahoo!ニュース個人オーサー、医療従事者向けサービスの運営などを通じて、わかりやすく正確な医療情報を発信され続けています。今年2019年9月14日には医学生・研修医向けの単著「もう迷わない!外科医けいゆう先生が贈る初期研修の知恵」を出版されました。今回はけいゆう先生の取り組みについて聞くとともに、単著の狙いやキャリア観を伺いました。
2010年、京都大学医学部卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院臨床研修医・外科専攻医、田附興風会医学研究所北野病院消化器センター外科医員を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程、消化管外科。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営。開設2年で800万PV超を記録。Yahoo!ニュース個人オーサー。時事メディカル、看護roo!、ケアネットなどのウェブメディアで定期連載。全国各地でボランティア講演なども精力的に行っている。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。
――けいゆう先生はブログ「外科医の視点」や、 イベント「#SNS医療のカタチ」などで、患者向けにも医療情報を発信されています。この取り組みを通じた発見や気付きがあれば教えてください。
けいゆう先生 ブログを通した情報発信には、かなりノウハウが必要です。単にブログを作って記事を書き溜めるだけでは誰一人として見てくれません。ネット上には星の数ほどの記事がありますし、他人の文章をじっくり読むほどみんな暇ではないからです。
そこで、よく見られているブログをたくさん見て研究しました。200以上のブログを見たと思います。そして、医療に関して疑問を持つ人が自分のブログにたどり着けるような施策を講じることができるようになりました。
実際、ブログを運営してアクセスを細かく解析すると、非常に多くの人が毎日、昼夜問わず、医療に関する疑問を検索エンジンで検索していることが分かりました。こうした方々に怪しげなサイトの誤った情報が届いてしまったら、と思うと、さらに焦燥感にかられ、コンテンツを何十、何百とひたすら作り続けました。
また、ブログとYahoo!ニュースのような外部メディアの連載では読者層や読む人の目的が違いますので、書く内容や書き方を変えています。 オフラインでの講演ももちろんそうです。こうした細かな発信方法の使い分けが重要だと思います。
けいゆう 先生が運営するブログ 『外科医の視点』https://keiyouwhite.com/
――インターネット・SNSなどがさらに身近になったことで、一般人の医療に関する知識は変化していると感じますか?
けいゆう先生 SNSは身近になったとはいえ、SNSで医療に関する情報を収集している人はごく少数でしょう。特にTwitterは多くの医師アカウントが情報発信していますし、誤った情報もすぐに訂正されることが多いため、かなり質の高い情報が得やすいツールだと思います。ネットだけでなく、SNSを上手に使って情報収集する人が増えれば、と思います。
――医療に関する情報発信をされて2年以上が経ちました。ブログ開設当初と比べ、けいゆう先生が発信する内容に変化はありますか?
けいゆう先生 Yahoo!ニュースや時事メディカルといった大きなプラットフォームでの執筆機会が増えたので、自分のブログでは、定期的にブログに通ってくれる「
――医療従事者間でも、専門や業種が違うと知識に差があります。こういった知識の差に対してはどのように付き合っていくべきと感じますか?
けいゆう先生 専門外の知識であれば、適宜専門家に任せられれば問題ない、というのが答えです。医師ー看護師間での知識の差についても、専門性が違うので、それぞれの専門分野を尊重して分業していくことが大切、と考えています。
――けいゆう先生は、医療従事者同士が交流できるイベント「メディBAR」の運営にも携わっていらっしゃいますね。
けいゆう先生 「メディBAR」は診療科や施設の垣根を超えて情報交換することが目的です。医療の世界はかなり閉鎖的で、科や施設、職種が違うと交流する機会が極端に少なく、思いもよらぬところの知識不足でつまづくことはあると思います。そんな時に、他の領域で気軽に相談できる関係が作れたら、という意図で企画しました。
現に私自身、「メディBAR」のおかげで知り合えた開業医の先生に相談に乗っていただいたり、臨床研究コーディネーター(CRC)の方と情報交換できたり、と明らかに本業にプラスの効果をもたらしていると感じますね。
開業医の先生と知り合う機会はなかなかありませんし、CRCのいない病院はたくさんありますからね。
写真はイメージです
――2019年9月14日に医学生・研修医向けの単著「もう迷わない!外科医けいゆう先生が贈る初期研修の知恵」(シービーアール,2019)を出版されました。今回、若手医師に向けて著書を出版される理由・経緯について教えてください。
けいゆう先生 自分のウェブサイトの中には若手医師向けのコンテンツも多数あり、それを見て出版社の方が声をかけてくださりました。同様に、他のウェブメディアからも若手医師向けに連載の依頼があったので、これらをまとめて書籍にしたいと考えました。
医学に関する知識を提供する書籍は多いですが、キャリアの歩み方、日常診療における患者さんとの会話の仕方、姿勢といった部分では、直接先輩医師に教えを請うしかないという現状に不足を感じていたというのが元々の動機です。
――著書の前書きには、
“若手医師が勉強法やキャリアについて情報収集したいと思った時、アクセスできる情報ソースは意外に限られています。インターネットで検索したり、書店に行って本を探したりしても、自分に役立つ情報はなかなか見つけにくいものです。”
山本健人『もう迷わない! 外科医けいゆう先生が贈る初期研修の知恵 (クリニカル・ベース・レジデント シリーズ)」』(シービーアール,2019)
とあります。こういった問題は、どのようなことが背景にあると感じますか?
けいゆう先生 単にこうした内容で発信する人が少ないからではないかと思います。医学知識に関しては昔に比べると分かりやすい教科書がたくさん出ているのですが・・・。
特に私が今回テーマとしている外科研修に関してはそう思います。
――前書きにはこの他にも、
“私はこの書籍の原稿を書きながら、大きな不安に何度も押しつぶされそうになりました。
たかが卒後10年目の若造が、勉強法やキャリアについて偉そうに語ることは、果たして許されるのだろうか?
外科医として経験豊富で長いキャリアを積んだベテラン医師に比べ、自分は有益な何かを本当に後輩に提供できるのだろうか?”山本健人『もう迷わない! 外科医けいゆう先生が贈る初期研修の知恵 (クリニカル・ベース・レジデント シリーズ)」』(シービーアール,2019)
ともあります。「本職+α」で活動を始めることは多くの困難や不安があると思いますが、そういったものに対してどう向き合っていくべきだとお考えですか?
けいゆう先生 私にとって情報発信はあくまで「+α」の範囲で、本業の外科医としての診療は第一優先と考えています。目の前の患者さんにとってベストを尽くすこと以上に大切なことはありません。
ただ、多くの方が病院に来る前にネットや書籍、テレビなどを見て膨大な医療情報に惑わされ、時に健康被害を受けてしまう現状があります。
病院に来ない方、来る前の方に対するアプローチとして、この情報発信という「+α」の価値が生まれると考えています。
キャリアについて
――大学で研究をされていますが、進路を決めた経緯などお教えください。
けいゆう先生 私はもともと8〜9年目に大学院に帰学すると決めていました。消化器外科医としてがん診療を行う上で、がんの分子生物学に触れる期間は必要と考えていたからです。
実際、がんに関する基礎研究に従事するようになったことで、臨床がまた違った風に見えるようになり、臨床医としてステップアップできると確信しています。
――今後は、どのようなキャリアを考えていますか?
けいゆう先生 学位を取得すれば、再び臨床に戻って外科診療に従事していく予定です。これまで学会発表や論文執筆などの学術分野にも力を入れてきましたが、これからもそれは継続していきます。
――医療情報発信の経験がキャリア選択に与えた影響はありますか?
けいゆう先生 情報発信の経験がキャリア選択に影響を与えた、ということはありませんが、日常診療には少なからず影響を与えたと思います。ブログでは読者の方と3000件以上のコメントをやりとりしましたし、SNSでも4万人近くのフォロワーと方とやり取りする中で、一般の方の医療に関する考え方を知れるのは非常に大きいと思います。
――読者だけでなく、先生も情報発信への反応から貴重なものが得られているのですね。
今回は、本当にどうもありがとうございました。
山本健人先生の著書はこちら
(2020/3/14 情報更新)
もう迷わない! 外科医けいゆう先生が贈る初期研修の知恵 (クリニカル・ベース・レジデント シリーズ) (シービーアール,2019)
医者が教える 正しい病院のかかり方 (幻冬舎新書) 新書 – 2019/11/28
あなたにおすすめ
人気記事
- M.D.とPh.D.とは?医学博士の取り方、日本と海外の違いとメリット。...
- 大きすぎる国家資格免許証の保管方法。医師免許証・医療系免許証の取扱説明書...
- MD-PhDコースがある日本の大学医学部まとめ!医学部在籍しながら医学博士が取得できるMd...
- 【例文あり】医療従事者のための「妊娠報告」後編・ビジネスマナー講師に教わる妊娠報告メールの...
- 【最新2023年度版(2024年実施)】すぐわかる!医師国家試験合格発表後の免許証受け取り...
- カードタイプの医師免許証?日本医師会の医師資格証とは。費用・申込方法。...
- 【最新2023年度版(2024年実施)】すぐわかる!言語聴覚士国家試験合格発表後の免許証受...
- 看護師をやめて、キャビンアテンダントになってから見えたもの...
- 看護師をしながら大学院進学を目指す~大学院受験のプロに聞いてみた~...