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院長が雇用を成功させるコツ・「働き方改革」を意識した労務上の注意点

2019.08.29 17:09





 

医師や歯科医師が独立してクリニックを開業するとき、看護師や歯科衛生士、事務長や事務職員、医師や歯科医師といった「人」を「雇う」必要があります。雇用とは、労働者を採用して仕事を与えて賃金を支払うことであり、経済行為であり法律行為でもあります。

 

つまり、雇用は経済行為なので、雇用に失敗するとクリニックの経営が傾いてしまうかもしれません。また雇用は法律行為なので、間違った雇い方をすると罰せられることがあります。

 

そして2019年には、大学附属病院において医師や歯科医師に診療行為をさせているにも関わらず給与を支給していない実態が明らかになり、文部科学省が適切な雇用・労務管理に取り組むよう注意しています。

働き方改革が法制化され、クリニックの院長はこれまで以上に「働かせ方」に配慮しなければなりません。新院長が「初めての雇用」を成功させるコツを紹介します。

 

求人票を出す前に賃金などの労働条件を決める

 

医師・歯科医師がクリニックを開業すると、院長は雇用主になり、それ以外にスタッフは全員、労働者になります。看護師や歯科衛生士だけでなく、医師や歯科医師を採用すればその人たちも労働者です。

したがって院長は、「医療・歯科医療のリーダー」と「労働者に仕事をさせる社長」の2役を担うことになります。

雇用と労務は社長としての仕事になります。

 

雇用はスタッフを採用するところから始まりますが、しかし採用前にも重要な仕事があります。それは求人募集を出すことです。

求人を出すときの注意点は以下の記事にまとめましたのでご覧ください。

はじめての求人掲載の際の注意点

求人票に掲載する情報のうち、賃金、労働時間、残業、社会保険は特に重要なので、それぞれ解説していきます。

 

賃金をどのように決めるか

労働者への賃金は、厚生労働省が定める最低賃金以上であれば法律をクリアできますが、もちろん、それで足りると考えている院長はいないでしょう。

ではスタッフたちの適切な賃金額はいくらなのでしょうか。

 

高くすると下げづらい

新人院長が注意しなければならないのは、スタッフの賃金を高くしすぎてしまうことです。勤務医時代に「医療・歯科医療のスタッフの賃金は低すぎる」と感じていた医師・歯科医師もいるでしょう。それで、「自分がクリニックを経営することになったら、スタッフには十分な給料を支払いたい」と考える医師・歯科医師は少なくありません。

 

しかし「賃金=人件費」は経営に大きな影響を与えます。もし新しいクリニックの経営が軌道に乗らないと、人件費の削減を検討することになるかもしれません。

しかし賃下げをスタッフたちに理解してもらうことは簡単ではありません。また、仮にスタッフが賃下げに応じたとしても、院長への不信感が芽生えてしまうかもしれません。

そしてスタッフたちが賃下げに同意しない場合、院長が一方的に減額を実行することは許されません。労働基準法第2条

では、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」とされており、労働契約法第8条・9条によると、労働条件の不利益変更は、原則として労働者との合意が必要とされています。

 

そのため、もし一方的に賃下げをしたら、減額した賃金は無効と判断される可能性があります。

院長は、相場より高い賃金を支払う決断は慎重に行ってください。

 

「安い」と思われると人材が集まらない

ではスタッフの賃金は「安い」額から始めたほうがいいのかというと、それも違います。

地域相場以下の賃金を支払っていると、「給料が安いクリニック」という評判が広まってしまうことがあります。そのような噂が広まると、優秀な人材が求人に応募してこなくなってしまうかもしれません。

近隣クリニックと同額が無難、見せ方も注意

新院長がスタッフの賃金額に迷ったら、近隣のクリニックと同額にしてはいかがでしょうか。地域の賃金相場はハローワークの求人票や求人情報誌を調べればわかります。

賃金相場を調べるときは、「年収=(基本給+残業代+その他手当)×12カ月+年間賞与額」の各項目を意識するようにしてください。

 

そして賃金は「金額の見せ方」が大切です。「基本給25万円+賞与3カ月分」と「基本給26万円+賞与2.3カ月分」では、前者のほうが年収が高くなりますが、一瞬、後者のほうが高く見えないでしょうか。

そして、冷静に両者を計算した人でも、年収が少なくなる「基本給26万円+賞与2.3カ月分」を好む人がいます。

それは医療・歯科医療業界では転職が珍しくないからです。同じ年収額なら、基本給が多いほうが好まれる傾向があります。

 

大学附属病院の無給問題とは

冒頭で紹介した、大学附属病院の無給問題を紹介します。文部科学省は2019年6月、108の大学附属病院の計31,801人の医師・歯科医師のうち、7%に当たる2,191人が無給医だったと公表しました。

大学附属病院で勤務したことがある院長なら、もしかしたら無給を経験したことがあるかもしれませんが、無給は労務管理としては最悪レベルといってよいでしょう。

 

労働時間と残業と社会保険について

労働基準法では、使用者(雇用主)は1日8時間、1週間40時間を超えて労働者を働かせてはならないと定めています。

労働基準法では残業は例外扱いになっていて、スタッフに残業させるには「36協定(さぶろくきょうてい)」という特別な法的手続きが必要になります。

 

労働時間と残業について

新院長のほとんどは、勤務医時代に当たり前のように残業をしてきたと思います。また同僚やスタッフたちも残業を苦にしていなかったでしょう。

しかし新院長は、「スタッフの労働時間は1日8時間、週40時間」「残業は例外」としっかり意識しておいたほうがいいでしょう。

 

そして、残業代はしっかり支払うようにしてください。例えば新人の看護師が先輩の指導を受けて残業したときも、残業代を支払ってください。「先輩から仕事を教わっている時間は生産していないので、対価を支払う必要はない」という考え方は通用しません。

指導、教育、研修と残業代には次のような基準があります。

 

・業務に密接に関わっている・クリニックや院長の指示がある:支払う必要がある

・自主的な研修・クリニックや院長の指示がない:支払わなくてよい

 

例えば、スタッフが自主的に学会で発表しようと考えて、勤務時間外にクリニックの会議室を借りてクリニックのパソコンで作業をしているときは、残業代を支払う必要はないでしょう。

しかし、業務改善の一環として院長や事務長や看護部長の指示で看護師たちに看護研究をさせる場合は、残業が発生すれば残業代を支払う必要があります。

 

残業と36協定について

36協定とは、クリニック側がスタッフたちに時間外労働や休日出勤をしてもらうときに行わなければならない法律上の手続きです。労働基準法第36条にその規定が書かれてあることからそのような名称になっています。

 

院長と労働者の代表が時間外労働や休日出勤に関する協定を結び、その協定書を労働基準監督署に提出します。

労働者の代表は、労働者の過半数で組織する労働組合か、労働者の過半数を代表する者、となっています。クリニックで労働組合を結成することはあまり想定できないので、実際は労働者の過半数を代表する者と36協定を結ぶことになるでしょう。したがってスタッフたちに、労働者の過半数を代表する者を選定してもらわなければなりません。

このとき、事務長は管理職でありクリニック側の人間なので、労働者の過半数を代表する者にはなれません。

 

社会保険について

公的医療保険(健康保険)、公的年金保険(厚生年金保険)、介護保険、労災保険、雇用保険のことを社会保険といい、1人でも雇用したら社会保険に加入させる義務があります。

正職員だけでなく、1カ月の所定労働日数が正職員の3/4以上、1日または1週間の所定労働時間が正職員の3/4以上のパートも社会保険に加入させなければなりません。

 

雇用契約書・労働条件通知書と就業規則の関係

院長は、スタッフを働かせる前に就業規則を策定しなければなりません。就業規則には、賃金、労働時間、休暇、制服規定などを明記します。スタッフの人数がパートを含めて10人以上になったら就業規則を労働基準監督署に届け出る義務が発生しますが、9人以下でも就業規則をつくっておいたほうがよいでしょう。「就業規則があるクリニック」という評価は、採用でもプラスに働くからです。

 

就業規則に賃金などを明記してあっても、それとは別にスタッフたちと個別に雇用契約書を交わしてください。雇用契約書と似た書類に、労働条件通知書がありますが、この2つを合わせて「雇用契約書兼労働条件通知書」としてしまえば、書類を2通つくる必要がありません。

 

雇用契約書兼労働条件通知書には、少なくとも次の内容を記載しなければなりません。

・賃金額

・賞与に関する事項

・賃金の締め日と支払日、

・昇給に関する事項

・労働契約の期間

・就業場所

・業務内容

・始業と就業の時刻

・時間外労働に関する事項

・休憩時間、休日、休暇

 

医療・歯科医療ならでは雇用上の注意

クリニックは、医師や歯科医師、看護師、歯科衛生士、診療報酬に精通した事務職員といったプロフェッショナルを雇用することなるため、一般企業における労働者の雇用とはかなり状況が違います。

経歴やプライドなどに配慮する必要になりますが、「配慮のしすぎ」もトラブルの種になりかねません。

 

医師や歯科医師を雇用するときの注意点

開業したクリニックが繁盛してきたり、移転して拡張したりするときは、自分以外の2人目3人目の医師や歯科医師が必要になります。

このとき院長は、次の事項について検討してみてください。

 

・バイトで来てもらうのか正職員として採用するのか

・正職員の場合:経営への参画を希望しているのか、独立を希望しているのか

・正職員の場合:インセンティブを設定するのか、基本給を高くするのか

 

クリニックで働く雇われ医師や雇われ歯科医師は、将来の独立か経営への参画を希望していることが多いので、その点は「膝を突き合わせて」「腹を割って」話して本音を引き出してください。

正職員として雇う医師や歯科医師は、ビジネスパートナーのような存在になります。したがって、経営方針や賃金や働き方についてはドライに交渉したほうがいいでしょう。

 

看護師や歯科衛生士などを雇用するときの注意点

医師や歯科医師が独立開業する場合、以前一緒に働いていた「元同僚」の優秀な看護師や歯科衛生士を雇いたくなると思います。また、優秀な事務職員がいたら、新クリニックの事務長にスカウトしたくなるかもしれません。

元同僚であれば、院長の医療スタイルを理解しているはずなので、クリニックの立ち上げや運営がスムーズにいくと期待できます。

しかし「なれ合い」と「意識のギャップ」には十分注意してください。

 

大きな組織のなかにいる医師・歯科医師と看護師・歯科衛生士は「チーム医療の仲間」ですが、院長とスタッフになると「雇用主と労働者の関係」になります。

 

院長はスタッフに厳しいことを言わない局面もあるかもしれませんが、元同僚のスタッフたちはいつまでも「同僚意識」が抜けないかもしれません。

 

例えば、クリニック内で「スタッフは院長のことを院長と呼ぶ」と決めたとします。しかし元同僚のスタッフは院長を付けず「○○先生」と呼び続けるかもしれません。

もしくは、これまで面識のない人を看護師長にして、一般看護師に元同僚を採用した場合、元同僚の看護師は、自分が師長に指名されなかったことに対して不満が出るかもしれません。このように、元の人間関係がある場合は、必ずしもではありませんが、クリニック内の秩序維持や組織の統率がとりにくくなる可能性があります。

もちろん元同僚のスタッフのなかには「分別」をわきまえた人もたくさんいます。

 

新クリニックの立ち上げメンバーは、元同僚たちだけで固めるのではなく、新規採用者も含めたほうがバランスがとりやすいでしょう。

 

まとめ~働き方改革は「働かせ方改革」

働き方改革が法制化され、「残業や長時間労働は当たり前」の時代が終わろうとしています。ところが、過酷な労働時間を長年経験してきたクリニックの院長は、「残業と長時間労働なしには医療は立ち行かない」と考えがちです。

しかしクリニックの多くのスタッフは、「医療や歯科医療こそ働き方改革が必要だ」と思っています。

スタッフとの意識のギャップを生まないように、院長は自らの雇用方針や労務管理において「働かせ方改革」を意識してみてはいかがでしょうか。


 

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