適切な情報はセンセーショナルなものではなく、 じんわりと人々の心に浸透していくもの。

適切な情報はセンセーショナルなものではなく、 じんわりと人々の心に浸透していくもの。

2019.09.01 08:00




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小児科専門医の立場からのSNS発信で、信頼と人気を得ている「パパ小児科医」(通称ぱぱしょー先生。以下、ぱぱしょー先生)。育児世代の母親を中心とするフォロワー数はTwitter54000人、instagram38000人の現役医師であり、2019年12月には開業を控えています。その道のプロである医療関係者の評価も高いぱぱしょー先生に、SNSでの活動を中心に、開業を含むリアルの医療現場についても話をお聞きました。

 

――まずは、TwitterなどのSNSでの発信を始めたキッカケから教えてください。

 

ぱぱしょー先生 ツイッターを開始したのは2016年3月です。ネットの情報には母乳育児を強く薦めるサイトが多く、メリット・デメリットについてフラットに記載されたものは見かけませんでした。そのことに小児科医として違和感を持ち<SNSならその違和感を共有できる人がいるのではないか?>と思い、情報収集を目的として始めたのがキッカケです。小児科医がTwitterをしているのを知ると、世の中の親、とくにママからたくさんの不安、悩みの訴えがあり、それらに反応しているうちに自然と医療情報を発信していくようになったというのが大雑把な流れです。診察室では目の前の限られた患者さんにしかお話できません。でも、子育てをしている人にとって受診のハードルは高く、そもそも受診に至らない人もいます。家で悶々と悩む人に情報を届けることの重要性に気づき、積極的に発信を行うようになりました。

 

――2016年と現在を比べて、Twitterのやりとりから感じる育次世代の母親の変化はありますか?

 

ぱぱしょー先生 現在も誤った医療情報に戸惑う患者さんは多いです。たとえば、<ステロイド軟膏は怖い薬?><アレルギーの予防には母親が食事制限をすべき?>という不安は、実際の診察室でもよせられる代表的な質問なんですね。答えはどちらもNOです。ステロイド軟膏は適切に使えば怖い薬ではありません。そういった質問はいまでもTwitterに寄せられますし、これらの認識の誤りについて、情報を届ける重要性を感じています。ただ、3年前に比べて、SNSを用いて医療情報を得ようとしている親は増えたと思います。それでも、いまなお、<どこにアクセスすれば適切な医療情報を得られるのか?>という悩みは残っているのではないでしょうか。

 

――そのお答えともリンクする具体的な取り組みが「#インスタ医療団」。ぱぱしょーさんを中心とする医療関係者のおかげで、“本当に必要な人に必要な医療の情報が届く”という簡単そうでいままでは難しかったことが、かなり大きな規模で実現できていると思います。

 

ぱぱしょー先生 ありがとうございます。たしかに、医療のSNS活用の可能性は、患者さんが医療情報を得やすくなったり、医療従事者も患者さんの反応を得やすくなったと思います。医療従事者相互のディスカッションもさかんになってきていて、有用性は高いと感じています。ただ、「#インスタ医療団」には限界があって、誰でもハッシュタグを利用できるので、適切でない情報も混入してしまう。そんな多数の情報から、患者さんが比較しながら適切な情報を選んでいく方法を啓蒙すること、また公的機関が発信するなどで信頼性を高めることが今後の課題だと思います。

 

――今後の課題とは、具体的にどのようなものですか?

 

ぱぱしょー先生 SNSなので、そもそもSNSをしていない層には届きにくい。とくに高齢者はSNSをしていないので、テレビや新聞のほうがメディアとして有用なのではと思います。若い世代においてはSNSの有効性は今後ますます高まるでしょう。だからこそ、信頼性や責任の所在など、個人の発信には問題があります。理想は学会や医師会、厚生省などがバックアップする体制があることです。たとえば、学会が10人くらいのインフルエンサーを選んで共同運用し相互チェックを行うなどです。また、どのように情報を見極めていくかや健康の基本的な知識を、子どもたちに教えていくことも一緒にすすめていかなければと思います。適切な情報はセンセーショナルなものではなくて、じんわりと人々の心に浸透していくものです。多くの医療者がコツコツと発信していくことで、だんだんと世の中は動いていくと感じています。フォロワーが多くても少なくても、届ける先はただひとりの患者さんですから、診察室で目の前の患者さんに届ける気持ちで発信していくといいと思います。

 

――そもそも、ぱぱしょー先生が、医師を目指した経緯、細分化するのなら小児科医を志した理由はどのようなものだったのでしょう?

 

ぱぱしょー先生 医師を目指した経緯は、自分がかつて病気で入院したこと、親が医師であることが影響しています。小児科になったのは、総合診療的なことがしたかったこと、近大堺病院時代の恩師のようになりたかったからです。子どもたちが元気になることや、親の安心した表情を見られることは大きなやりがいです。ただ小児科医になった最大のメリットは、自分の子育てに役立ったことでした。

 

――小児科医は不足していると言われていますが、不足する原因と不足しないための改善策はあるのでしょうか?

 

ぱぱしょー先生 医療の世界は、どの科もやりがいがあり魅力的なはずなので、不足する場合はその魅力以上に欠点があるのではと思います。労働条件であったり、所属先の文化……それは時に理不尽ですらある文化や、訴訟などの責任リスクであったりです。必要なことはそれらをひとつひとつ解決していくことかと思います。

 

――ぱぱしょー先生のSNSでの活動が、同じ小児科関係の方や、小児科を目指す若手医師とのつながりの一助になっているのではと想像します。

 

ぱぱしょー先生 ありがたいことに、そういう成果のようなものは、たしかにあります。小児科でも専門は様々ですし、ほかの科の先生の意見を聞けるのはとても有用です。知識のアップデートにも役立ちますし、日々やりとりするので親しくなって、リアルでも交流したりしています。若手の医師や学生さんから、私もやってみたいという声も聞かれます。そもそも、SNSならではの大きなメリットは<患者さん(フォロワーさん)から直接のフィードバックがある>こと。実際の診察室では聞くことのない、患者さんの本音にふれられるSNSでの成果を、同じ小児科医や後進のみなさんにも共有できたら、より広がりが生まれると思います。もちろん、守秘義務にまつわるようなことは厳守してですが。

 

――最後の質問です。これから開業予定とのことですが、その経緯とビジョンについて教えてください。

 

ぱぱしょー先生 もともと開業するつもりでしたが、具体的に考えたのは1〜2年ほど前からなんです。私の場合、少し特殊で、医療法人から院長職を依頼され、オープニングの医療デザインから関わるという形をとっています。雇われ院長と開業の中間くらいのイメージです。ちょうど開業について具体的に考え始めていた2018年の夏に院長職の打診があり、思いが一致したので引き受けることになりました。「ゆめこどもクリニック伊賀」という名前にしました。漠然と、あるいは具体的に、誰もが幸せになりたいという「ゆめ」を持っています。子どもたちの健康を支えるという手段を用いて、幸せになりたいという「ゆめ」を支えることがクリニックの役目です。子どもたちにとって病院は嫌なものというイメージがあるかもしれませんが、<健康になるための大切な場所>と思ってもらえるようにしていきたいです。

 

<プロフィール>

2児の父で小児科専門医の立場からパパ小児科医(ぱぱしょー)の名で、2016年からSNSを用いた医療情報発信を続けている。2008年 近畿大学医学部卒業、2010年 近畿大学医学部堺病院小児科、2017年 大阪南医療センター小児科、2019年12月に「ゆめこどもクリニック伊賀」(医院Twitterアカウント @yumekodomoiga )を開業予定。「ぱぱしょー.com」https://papasyo.com/

 

(インタビュー Dspace運営・編集 唐澤和也)

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