【開業】医療機関の生存率は?アフターコロナで医療施設は生き残るのか?
2020.07.09 16:13
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2020年前半から世界中で感染拡大した新型コロナウィルス感染症の影響で、経営に影響を受けている医療機関も少なくないことでしょう。廃業する医療機関がどのくらいになるのか、どのようにしたら生き残れるのか、皆さん気になっていることと思います。
一般的な企業の生存率はどのくらいなのでしょうか?
また、医療機関の生存率はどのような位置づけなのでしょうか。
アフターコロナでは、今後は医療機関はどのようになっていくのでしょうか。
今回は医療職の皆さんに、省庁等の統計データをご紹介したいと思います。
一般的な法人の寿命は?存続の傾向
一般的な法人の生存率はどのくらいなのでしょうか?
2015年の中小企業庁の資料によるグラフですが、以下は、開業後10年までの事業所について、それぞれ前年からの生存率を示したグラフです。*1
グラフ:開業年次別 事業所の経過年数別生存率 *1より 引用
グラフより、企業の生存率は開業後、しだいに安定していくことがわかります。個人事業と法人を比べると、法人の方が生存率高く、安定に要する期間も短いです。*1
会社事業所では生存率は3~4年で安定し、かつ安定した後の生存率は前年比93%程度の水準を保つ様子が見られます。*1
一方、個人事業所では創業直後の生存率が平均62.3%と、会社事業所の生存率79.6%に比べかなり低くなっています。*1
また生存率の安定までに5~7年と会社事業所よりも長い期間を要します。しかも、安定後の生存率も前年比80%台後半と、会社事業所よりも低いことが明らかになっています。*1
医療施設の開設者は法人?個人どちらが多い?
ここまでで、法人と、個人事業の安定性に差があることはわかりました。果たして、医療業界では法人と個人とどのような比率なのでしょうか?
既出のグラフの出展と同じ、中小企業庁の資料*2 によると、『医療・福祉』の新規開業(2004年と2000年で比較)では、約84%が個人事業となっています。
*2 第1-2-10図 経営組織別に見た新規開業企業像 より引用 + マークを追記
~小売業、飲食店・宿泊業、医療、福祉、教育、学習支援業、複合サービス業などで個人形態の開業が多い~
このように、『医療・福祉』では個人事業8割とデータがありますが、医療機関単体の場合も見てみましょう。
医療機関の場合は、医療法人で開業する場合と、個人事業主開業の場合と主に2パターンあります。(他に、医療施設の開設者として、国や公的医療機関、社会保険関係団体等がありますが、ここでは開業医向け記事のため省略します。)
厚生労働省 平成30(2018)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 *3 によると、医療施設の開設者の比率は以下のようになっています。
*3より引用
医療施設の開設者の医療法人と個人の比率まとめ(平成30年)
病院 医療法人 69%
個人 2%
一般診療所 医療法人 42%
個人 41%
歯科診療所 医療法人 21%
個人 78%
(小数点以下、四捨五入)
これらから、一般診療所、歯科診療所に関しては、概ね半数以上が個人開業であると言えます。
個人開業のグラフ*1 から加味すると、一般的な個人開業のクリニックが開業後に安定してきたと言える勝負期間の目安は、5〜7年と考えるとよいのかもしれません。
*1のグラフから、企業と個人事業で生存率の差や安定までにかかる期間が明らかになっている一方、経営組織の違いや、開業後の経過年数の長短にかかわらず、事業所の生存率は低下傾向にありますが、これは、開業企業の生存環境が次第に厳しくなってきたことが現れたものと評されています。
経営者にとっては、開業の種別は関係なく、厳しい時代なのです。
医療業界の事業の存続と倒産
ここまで、一般的な事業所の生存率についてご説明してきました。医療施設も個人事業が多いので、不穏に感じる方もいらっしゃったかもしれません。
しかし医療関係者にとっては少し明るいデータもありますのでご紹介させてください。
経済産業省 中小企業庁の資料*4 の業種別階廃業率 (2017)から、各業種の開廃業率をみると、『医療・福祉』 業はすべての業種の中で、最も廃業率が低い業種となっています。(下グラフ)
この2017年のグラフに具体的な数値は明示されていませんが、 2015年中小企業庁のデータ(第1部 平成28年度(2016年度)の中小企業の動向)**でも 『医療・福祉』業は廃業率2.4%で、すべての業種内で最も低い廃業率となっています。
業種別開廃業率の分布状況 (2017)
グラフ:*4 より引用
このように、『医療・福祉』業の位置づけとしては、『低開業率、低廃業率』であり、「高開業率、高廃業率」の宿泊業、飲食サービス業と対極です。
医師や歯科医師、薬剤師が開業するには、一般的に経験年数も必要なので、業種としての開業のハードルの高さもあって、低開業率にあるのかもしれません。
新型コロナウィルスの医療機関開業・廃業への影響は?
2020年は新型コロナウィルス感染症が世界中で流行し、日本も緊急事態宣言をするなどイレギュラーな年となりました。
新型コロナ感染症対策で、診療の体制やPPEの確保のため、コストは従来より大きくなると思われますが、医療機関の受診の自粛もあり、病院をはじめ、クリニックなどでは経営が苦しくなっているという声も多く聞きます。
新型コロナウィルス感染症の流行は、果たして、医療施設の開・廃業に影響はあるのでしょうか?
通常、開業を決定してから実際に開業するまである程度の期間 短くても半年単位以上かかるであろうことを加味すると、新型コロナウィルス感染症が広まっていった時期 2020年2~3月相当期間に開業した施設は、おそらくコロナウィルス感染症を予期せず決定していたと想像できます。
そのため、新規開業が減るのかどうかがわかるのは、2020年秋頃以降くらいにならないと表にあらわれてこないのではないでしょうか。
Dspace Plusでも、また時期を改めてデータを検証してみたいと思いますが、
今回は、一旦、ここ数年の医療施設の推移についてまとめておきます。(事業所単位ではなく施設数単位です。)
近年の医療施設数の推移
アンダーコロナ時期の月単位での医療施設数の推移
現時点(2020年7月)で見られる、最新の統計データが、令和2年4月末の医療施設動態調査 *5 です。
“病院の施設数は前月に比べ 13施設の減少、病床数は 7,260床の減少。
一般診療所の施設数は 24施設の減少、病床数は 601床の減少。
歯科診療所の施設数は 30施設の減少、病床数は 2床の増加。”
とされています。*5
合計67施設、すべての種類の施設において、医療施設が減少しています。
厚生労働省 医療施設動態調査(令和2年4月末概数)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m20/dl/is2004_01.pdf より。
ここだけ切り取ると、もしかすると新型コロナの影響で医療施設が減っている?と思ってしまうと思います。
さらに少しさかのぼって見てみたいと思います。
2020年4月以前の3ヶ月間をみると、
3月の医療施設動態調査 (令和2年3月)*6 では、
“病院の施設数は前月に比べ 9施設の減少、病床数は 2,711床の減少。
一般診療所の施設数は 51施設の増加、病床数は 179床の減少。
歯科診療所の施設数は 13施設の増加、病床数は 増減無し。”
合計 55施設の増加
2月の医療施設動態調査 (令和2年2月)*7 では、
“病院の施設数は前月に比べ 1施設の増加、 病床数は 1,550 床の減少。
一般診療所の施設数は 12施設の増加、 病床数は 237 床の減少。
歯科診療所の施設数は 8施設の減少、 病床数は 増減無し。”
合計5施設の増加
1月の医療施設動態調査 (令和2年1月)*8 では、
“病院の施設数は前月に比べ 4施設の減少、 病床数は 683 床の減少。
一般診療所の施設数は 50施設の減少、 病床数は 331 床の減少。
歯科診療所の施設数は 77施設の減少、 病床数は 増減無し。”
とあり、合計131施設の減少が見受けられます。
これらを見ると、令和2年4月よりも、新型コロナ感染症で自粛宣言等がある前の2020年1月のほうが減少が多いです。ざっと3ヶ月間を見ただけでは、影響があるとはいえるほどの数の変化や傾向はまだわからなさそうです。
近年の年単位での医療施設数の推移
先程は月単位の医療施設数の推移を見ましたが、この2年の推移を見ていきたいと思います。
平成30年でみると、平成 30 年 10 月1日現在における全国の医療施設総数は 181,408 施設で、このうち、「休止・1年以 上休診中」の施設を除いた「活動中の施設」は 179,090 施設(医療施設総数の 98.7%)でした。*9
“全国の医療施設は 179,090 施設で、前年に比べ 598 施設増加している。 「病院」は 8,372 施設で、前年に比べ 40 施設減少しており、「一般診療所」は 102,105 施設で 634 施設増加、「歯科診療所」は 68,613 施設で4施設増加している。”*9
とされています。
グラフ:*9 より引用 厚生労働省 医療施設動態調査(平成30年10月末概数)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/18/dl/02sisetu30.pdf
さらに、平成29年でみると、全国の医療施設は 178,492 施設で、前年に比べ 419 施設減少している。「病院」は 8,412 施設で、前年に比べ 30 施設減少しており、「一般診療所」は 101,471 施設で 58 施設減少、「歯科診療所」は 68,609 施設で 331 施設減少しています。*10
グラフ:*10 平成29年 医療施設調査 結果 施設数[445KB] (p2)より引用
ここ数年で見ると、医療施設数は、平成29年は419施設減少し、平成30年では 598 施設増加していました。
2020年1~4月の医療施設の増減の合計は、各月のデータから計算すると138施設の減少となります。
厳密ではありませんが、単純計算して1年間の増減数=3倍として推定すると、414 施設の減少と想定されますが、この数字は平成29年の419 施設減少とさほど変わりませんので、現状のデータだけから単純に見ても、新型コロナウィルスで潰れる医療機関が増えたとは言えなさそうです。※
(※統計の専門家ではなく、厳密な分析をしているわけではございません。ここでは大まかな話をする旨、お許しください。)
5月、6月分とまた今年度のデータが出てくれば、医療施設数と新型コロナ感染症の影響が推測できるようになるかもしれません。
まとめ
医療業種は、低開業率・低廃業率の業種であること、医療機関は比較的個人事業が多い業種であること、個人事業の方が法人より廃業率が高く、安定するまでに期間がかかることがわかったと思います。
2020年は、新型コロナウィルス感染症という大規模な感染症が起こり、今後の医療機関はどうなっていくのでしょうか。
各省庁により、オンライン診療の推進等もされており、医療業界も今までとはまた異なる動向がでてくるのかもしれません。
みなさんは今後の医療業界はどうなっていくと思いますか?
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【参考】
*1 第2節 事業の存続・倒産と再生 – 中小企業庁 – 経済産業省
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h18/H18_hakusyo/h18/html/i1220000.html
*2 中小企業庁 第1部 2005年度における中小企業の動向/第2章 中小企業の開廃業・倒産・事業再生の動向 /第1節 開廃業の動向https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h18/H18_hakusyo/h18/html/i1210000.html
*3 平成30年 Ⅰ 医療施設調査 表3 開設者別にみた施設数
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/18/dl/02sisetu30.pdf
*4 中小企業庁 中小企業白書 2019 第1部 第 5 章 開廃業の状況 (p69)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/03Hakusyo_part1_chap5_web.pdf
*5 厚生労働省 医療施設動態調査(令和2年4月末概数)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m20/dl/is2004_01.pdf
*6 厚生労働省 医療施設動態調査(毎月末概数)
令和2年 3月
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m20/dl/is2003_01.pdf
*7 厚生労働省 医療施設動態調査(毎月末概数)
令和2年 2月
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m20/dl/is2002_01.pdf
*8 厚生労働省 医療施設動態調査(毎月末概数)
令和2年 1月
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m20/dl/is2001_01.pdf
*9 厚生労働省 医療施設動態調査(平成30年10月末概数)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/18/dl/02sisetu30.pdf
*10 厚生労働省 医療施設動態調査(平成29年10月末概数)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/17/dl/02sisetu29-1.pdf
ライター 柴田育
Dspace運営(株式会社SPARKLINKS.代表)。歯科医師・歯学博士。東京医科歯科大学大学院卒業、北海道大学歯学部卒業。東京医科歯科大学矯正外来(非常勤)を経て、フリーランス歯科医師(矯正)として歯科に携わる。
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