1枚の写真の影響から看護師へ。フランス在住の元外科看護師がみるフランスの医療と日本の医療。

1枚の写真の影響から看護師へ。フランス在住の元外科看護師がみるフランスの医療と日本の医療。

2019.12.06 12:00




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Dspace Plusでは様々な医療職のみなさまのキャリアインタビューにより、違う職種のキャリアを覗いたり、悩みが似ている方の経験談を知ることで、『キャリア』ひいては『人生』に対しての視野を広げられることを目的に、様々な医療職の方にインタビューをしていく予定です。

今回は、外科の看護師の経験を経て、現在はフランスに在住し、育児と仕事を両立されているかもめのこ(ペンネーム)様にインタビューをしました。日本とフランスの医療の違いも教えてくださいました。ぜひご一読ください。

プロフィール かもめのこ(ペンネーム)

埼玉県出身。看護専門学校卒業、都内総合病院外科病棟で6年勤務。その後ワーキングホリデーにて渡豪し看護助手資格取得、看護助手として老人ホームに勤務。

帰国後は派遣ナースにて東京、埼玉、沖縄で外科病棟勤務。様々な看護系アルバイト経験あり。

日本でフランス人の夫と知り合い、結婚し渡仏。

現在仏在住3年目。

趣味は旅行、ヨガ、ジョギング、サルサなど

 

 

まずは、かもめのこさんが看護師を目指したきっかけと、外科の病院を選んだきっかけをお教えください。

 

『ハゲワシと少女』というピューリッツァー賞受賞の写真を見たのが看護師になるきっかけでした。

内戦が続いていたスーダンで飢餓寸前の少女をハゲワシが狙っているという有名な写真です。実際には、ハゲワシは少女を狙っていた訳ではないそうですが、写真だけみると狙っているように見えるこの写真を見た時、大きな衝撃を受けました。何か自分に出来ることはないか、と考えていたところ、看護師ボランティアでアフリカに行けるということを知りました。そこで迷わず看護師の道に進むことを決めました。

外科を選んだのは学生時代、外科看護のスピーディーさが自分に合っていると思ったのと、手術の翌日にもう歩いてしまう人間の回復力の凄さに喜びとやりがいを感じたためです。また外科病棟では急性期から終末期まで、手術、化学療法、ターミナルケアまで学べると思ったのも選んだ理由でもありました。

 

Sudane Famine

(flickrより(外部リンク))

 

(ハゲワシと少女 について参照:

National Geographic  第3回 ピュリツァー賞が与えた影響

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20120125/297289/?P=2

朝日新聞デジタル ピュリツァー賞受賞写真70年の全記録 http://www.asahi.com/photonews/gallery/pulitzer_prize_20120209/p205.html)

 

 

外科の看護師という経験は、現在振り返ってみるとどのような日々でしたか?

 

みんな揃って同じことを言うと思いますが、忙しかったです。3~5時間の残業は当たり前、家に帰っても勉強、休みの日にも勉強、病棟会議、看護研究…。

しかし興味があることだったので苦ではなかったです。また、やればやるだけ看護に生かすことができ、知識が増えていく喜びもあったので、忙しくも楽しい日々でした。

その時に学んだことと経験が、その後の派遣ナースや短期アルバイトに生かすことができたと思います。また精神的にも成長したと思います。多少のことでは驚かない、動じない、ストレスを感じてもうまく発散させられるようになりました。その点は予想不可能な海外生活でのトラブルや子育てにも生かせているのかな、と思います。

 

 

看護師時代に、キャリアの選択を悩んだことはありましたか?

 

外科でしたので、ストーマケアをする機会が多くWOC看護師と関わる中でWOC看護師の道を目指してみようかな、と思った時期もありストーマケア事例研究を何件か行いました。(※WOC:Wound Ostomy Continece の略)

私は専門学校卒で、同期や先輩、後輩はほとんどが大卒だったので学歴の劣等感がありました。臨床では全く学歴を感じることはなかったのですが、今後キャリアアップしていくためには大卒が必要だと思い、働きながら大学に行こうかと悩んだ時期もあります。

しかし、最終的には自分の最初の夢である、アフリカでのボランティア活動の夢が忘れられず、まずは簡単に海外へ行けるワーキングホリデー制度を使って英語を学びながら日本の外での医療事情を自分の目で見てみたいと思い病院を退職しました。

 

 

現在は、フランス在住のかもめのこさんですが、日本の医療業界での看護師としての経験を踏まえて、フランスで医療を受ける時に感じる患者としての違いや、医療現場の違いはございますか?

 

患者としての日本とフランスの違い

患者として感じる日本とフランスの違いは多くあります。

フランスでは医療分業制のかかりつけ医制度が採用されています。

医療機関に受診したい場合は、まず指名したかかりつけ医のもとへ行き、必要であればかかりつけ医から専門医や検査機関などを紹介してもらい、受診するという仕組みになっています。

医師、歯科医師、看護師、助産師、理学療法士はマンションの一室に診療所を持って活動しています。

日本のように一つの建物で診療、治療、処方までできる施設はありません。

医師の指示のもと、血液検査が必要な時には臨床検査技師のいる検査機関へ、レントゲン、エコーが必要な時は放射線技師がいる撮影専門施設へ指示書を持っていきます。

例えば、予防接種が必要な時は、医師の出した処方箋を持って薬局に注射薬を買いに行き、看護師の診療所の予約を取り、注射をしてもらいに行く、といった形になります。

子供の場合は小児科医が予防接種をしますので、この看護師の診療所に行く手間は省けます。薬は自己購入が必要です。

 

働く側としての日本とフランスの違い

日本を知ってしまっている患者としては、かなり面倒な仕組みですが、医療従事者の立場からみると、独立できて自由に仕事ができるいい仕組みになっていると思います。

日本の放射線技師や臨床検査技師が独立するのは難しいと思います。しかしフランスでは検査機関や撮影施設を構え独立できるのです。

私が産後に通っていた助産師の診療所で聞いた話ですが、その助産師は子供が3人いて忙しいため1週間に3日間しか働かないそうです。空いた他の曜日には他の助産師が診療所を開いています。

医師も同じく、1週間3日は診療所勤務、2日間は病院勤務、など自分の好きなように調整して勤務しています。以前見た歯科医師の診療所は午後のみ診療といったところもありました。

 

またバカンス大国でもあるフランスは「8月は1か月バカンスでお休みなので9月予約を取ってくださいね。」といわれることが普通で、1か月間まるまる診療所をあけて休みに出かけます。

ほとんどが予約制なので、自分のライフスタイルに合わせた仕事の仕方が確立していると思います。

ただ病院で働く看護師は日本と同じように激務で、辞めていくスタッフも多いようです。給料は日本と比べるとやや少ないようですが、最低5週間の有給休暇を取ることが義務付けられているので、休めないストレスはないのかな、と思います。

余談ですが、フランスでの薬剤師の社会的地位は高く給料はとてもいいそうです。調剤薬局を持つ薬剤師は開業医よりも給料はいいようで人気職業の一つだそうです。

 

 

現在は育児中のかもめのこさんですが、お仕事に対しては、今後どのように考えていらっしゃいますか?

 

現在は、フランスにある日本のお弁当屋さんでフルタイムで仕事をしています。来仏して間もなく働き始め、妊娠、出産、産休も含めて約2年間働いています。

フランスも保育園は激戦で、私たちも落選してしまいました。娘(1歳半)は日本でいう「保育ママ」のような制度のベビーシッターに預けています。子育て後や子育て中のお母さんが数日間研修を受けて国から認定されたベビーシッターです。ベビーシッターの個人宅で子供をみてもらうため、親が保育園と同じように毎朝子供を預けにいきます。1人最大4人まで子供をみれることになっていて、保育園に比べたら割高ですがこの制度を多くの人が利用しています。娘は6か月年上の男の子と2人で見てもらっています。

弁当屋さんでは楽しく仕事はしているのですが、看護師の仕事を離れて3年も経つと医療現場が懐かしく思えてきてきました。

 

 

スキルや知識を活かすには、どのような環境があればいいと感じていますか?

 

今後、看護師の資格を取り直そうと考えていますが、今は語学、経済、時間すべてにおいて難しい状況です。何か資格を生かしてできないか、と探して辿り着いたのが医療系の在宅ワークでした。Dspaceさんの医療特化型クラウドソーシングを見つけたときは私が求めているサイトだと思い即座に登録しました。

現在、在宅ワークは朝仕事に行く前、娘の就寝後と土日が主な活動日です。夫は子煩悩で土日私が仕事をしていると娘の面倒を喜んで引き受けてくれます。

国際結婚などを理由に海外在住の元医療従事者は多く存在すると思います。その中にはその国で資格を取り直す人もいますが、語学の問題、経済的な問題、時間的な問題で仕方なく他の職業についている人も多いのが現状だと思います。私の知人、友人でも多くが資格を生かせていません。

しかし医療系在宅ワークの案件は少ないのが現状です。私のような海外在住者や子育て中で夜活動する人向けに何か時差を使ってできるような仕事があればいいな、と思っています。

例えばの話ですが、クリニックなどで常勤の負担軽減のため残業となる事務作業はクラウドワーカーに依頼する、クリニック、訪問看護ステーションの診療報酬算定をクラウドワーカーに依頼する、など。セキュリティの問題もあるかと思いますが、何かできることはないのかな、と思っています。

まだ看護師になるきっかけとなったアフリカでのボランティア活動の夢の達成はできていません。いつ、どのように着地できるかわかりませんが、一歩ずつ今できること、今興味があることを行っていき、自分の成長に繋げていきたいと思っています。

 

 

ご結婚からフランスでの海外生活をされているかもめのこさんですが、海外での生活そして育児はいかがですか?

 

海外に興味はあったものの、まさかフランスに住むとは思ってもいませんでした。ましてフランスで出産、子育てまでするとは…。

まず、行く前によく耳にしていて不安だったのが「フランスは人種差別が酷いから気を付けた方がいいよ」と「スリに気を付けてね」でした。しかしこれは両方ともクリア。この3年間で酷い人種差別を受けた経験もスリにもあったこともありません。私がラッキーだったのかもしれませんが、人種差別もスリも場所を選べば危険回避できるのかなというのが個人的な感想です。

 

子育て面ですが、フランスの出生率は先進国の中ではトップであるということは以前から知っていました。合計特殊出生率は日本の1.42%に比べフランスは1・87%(2018年)です。

住んでいて子供が多いなと肌で感じます。私の住んでいる地域は特に子供が多いようで、小学校のクラスが足りなくなり、すぐ近くに新しい小学校ができました。私はバスで出勤するのですが、バスに乗っても地下鉄に乗っても子供は多く、子供に対する大人の目はとても温かいです。子供がぐずってるとあやしてくれたり、抱っこしているとほとんどの場合席を譲ってもらえます。ベビーカーを畳んで電車やバスに乗ったことは一度もありません。

フランスの医療保険制度はほぼ日本と同じで3割負担です。しかしフランスでは出産、不妊治療も保険が適応されます。妊娠初期から妊娠6か月までの妊婦検診は3割負担、その後妊娠6か月以降は無料になり出産時の入院も公立病院であればすべて無料です。その上、産後に出産一時金が出ます。

出産、子育てに対する経済的支援と就労に関して幅広い選択ができる環境整備の「両立支援」の政策が進められているそうです。

前述しましたが、フランスでは保育園に入れない場合でもベビーシッターなど他の手段があり、日本のように待機児童のため職場復帰が遅れる、といったことはあまり聞いたことがありません。働く両親にとってはありがたい制度です。

また在宅ワークの制度も充実していて、会社に週1回、月2回など出勤し他は在宅で仕事をするお母さん、お父さんも多くいるようです。

海外生活で苦労することもありますが、出産、育児に関してはラッキーだったな、と思っています。

写真はイメージです。

 

最後に、医療業界の皆様に一言をお願い致します。

 

枠に囚われず多種多様な働き方があっていいんだ、ということを知って、見て、試してほしいと思います。長時間働いているから偉い、短いから偉くない、ではなくて。

経営者、正社員、契約社員、パートタイマー、在宅ワーカー全員が自信と誇りを持って働ける医療業界になることを願っています。

どうもありがとうございました。

 

かもめのこさま、今回は貴重なご経験をどうもありがとうございました。

日本とフランスの医療機関の違いにも驚くところが多かったのではないでしょうか。

夢の実現に向けて頑張ってください。

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