医療ライターにこっそり教える、編集者が喜ぶ文章の書き方。
2019.09.01 01:00
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医療業界は、一見執筆業とは遠いように見えますが、Webメディアの増加に伴い、Webの記事作成の際に、医療監修や、医療職のライターが求められることもしばしばあります。
まだライターとしての経験がなくても、書くことに興味がある、挑戦してみたい医療職の方は少なくないはず。しかし、「Webの記事の書き方」を学校では一度も習ってきてはいないことでしょう。
そこで、今回は、数々のメディアで執筆経験があり、ご自身でもWebメディアを運営している中嶋よしふみ氏に、医療職の駆け出しライター向けに、文章の書き方のコツを教えていただきました。
【ライター】中嶋よしふみ
ファイナンシャルプランナー、シェアーズカフェ・オンライン編集長
保険を売らないFP。住宅を中心に保険・投資・家計の相談を提供する他、マネー・ビジネスの専門家が集うメディア、シェアーズカフェ・オンラインの編集長を務め、専門家向けの執筆指導を得意とする。日経DUAL、東洋経済、プレジデント、ITメディア、JBプレス等、経済誌で執筆多数。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。お金より料理が好きな79年生まれ。
医療ライターにこっそり教える、編集者が喜ぶ文章の書き方。
ライターは人手不足である――。
ライター業と特に関係のない人には「そりゃまあ、どこも人手不足なんだろうね」くらいの感想だと思いますが、ライターになりたい人、ライター業についたばかりの人は驚かれるかもしれません。ただ、これは紛れもない事実です。
じゃあなんで自分は仕事がないのか?と腹を立てるライターもいると思いますが、足りないのは優秀なライターです。優秀なライターの定義はいくつもありますが、日本語が正確、編集者が直さなくていい記事を書ける、面白い、といった条件は最低限満たす必要があります。
筆者はFPとして相談業を行いながら、多数の経済誌で執筆をしています。本も二冊出しています。相談と執筆のどっちが本業ですか?と聞かれることもありますが、両方です。記事や本を読んで信頼してくれた人が相談に訪れるからです。現在の連載もほとんどが記事を読んだ編集者さんから声を掛けて頂いたものです。
良い記事を書けば読者の役に立つことはもちろん、自身の売り込みにもつながります。編集者はウェブで記事を読みながら良いライターがいないか探しているわけです。
良い記事はとは何か? 何をどう書けばいいのか?
ウェブメディアを運営し、編集長として各種専門家に執筆指導を行う筆者なりに考えてみたいと思います。
■ネタと切り口。
記事は「ネタと切り口」で構成される――。
これは執筆指導で最初に教えることです。ネタはその記事で扱う題材、切り口はネタをどのような方向性で語り、説明するか、という意味です。まずは原則として、一つの記事で一つのネタに絞り込んで下さい。1本の記事で複数のネタを扱うと、一つのお皿に複数の料理を盛り付けたようにグチャグチャになってしまうからです。
そして「タイトルと書き出しで、ネタと切り口を明確にする」、これが最初にやることです。
タイトルについては基本的に編集者がつけますが、仮タイトルは必ず付けて下さい。最初の読者である編集者に理解してもらわないことには掲載すらされずボツになってしまいます。
記事を読み初めて、何について書いてあるか分からない、ネタは分かってもどんな話をしているのか分からない、という書き方では読者は読み始めてもすぐに逃げてしまいます。分かりにくい記事を読む義務は読者にありませんし、最後まで読めば分かるというのは読者への甘えです。逆に言えば書き出しがピタリと決まれば読者を引き込めるだけではなく、記事への理解度もアップします。
例えば夏に向けて熱中症をネタに記事を書いてほしいという依頼があったとして、冒頭にダラダラと関係のないことを書いて何の話をしたいのか分からない、というのでは当然アウトです。そんな変な記事を書くわけがないと思うかもしれませんが、実際には一行目に挨拶を書いてしまったり、アイスブレイクといって営業マンが本題に入る前に天気やちょっとした雑談をするように関係のない話を書く人もいます。
この記事では冒頭で筆者がどんな人物であるかを説明しましたが、挨拶やアイスブレイクではなく、記事の書き方を教えるに足る人物であるという、必要な情報を手短に説明しました。これは入口とかフックとも言います。
■時事ネタを入口に使う。
熱中症を扱う記事ならば、まずは熱中症や熱中症に関わるニュースを入口にするのが自然な導入です。季節外れの暑さで今年初の真夏日だった、昨年は熱中症で倒れた人が〇〇人にのぼり史上〇番目の多さだった、といった具合です。特に時事ネタ(その時々で起きたニュースや事件、事故等)は入口として使いやすい入口です。
余計なことを書かない方が良いなら一行目から本題に入ればいいのでは?と思ったかもしれませんが、これもアウトです。世の中のすべての人が熱中症に興味があるわけではありません。
時事ネタをフック・入口に使う理由は「この記事はあなたにとって関係のある話で読むべき内容です」と読者を引き込むためで、絶対に必要なモノです。読者に興味を持ってもらえるならなんでも構いませんが、使いやすいのが時事ネタです。
そして読者をしっかりひきつけてから、熱中症の症状を解説するのか、熱中症にならないための対策なのか、なった後の対処方法なのか、何の話をするか読者に明示してから本題に入ります。
この記事では入口としてライター不足の話で読者をひきつけて、記事の書き方をアドバイスします、とタイトル・書き出しで「ネタと切り口」を明確にしてから本題に入っています。これでおおよそ500文字程度です。
文字数に目安はありませんが、書き出しで細かい説明はせず、あくまで本題に入る前の前フリにとどめて下さい。なぜならネタと切り口がハッキリしないまま本題に入ると、読者はどこに行くのか分からないバスに乗せられたような不安に駆られて、読むことをやめてしまうからです。
書き出しでネタと切り口をしっかり示す、つまり何についてどのような話をするのか明確にする、これが鉄則です。最後まで読んでもらえるかどうかは書き出しで決まります。なお、適度に段落を分けるのも読みやすくするテクニックです(この記事では■のマークで段落を分けています)。
■コンサルタントのテクニック「雲・雨・傘」をお手本にする。
かなり手短に説明しましたが、書き出し一つをでもこのように注意をすべき点はたくさんあります。読まれる記事の書き方をすべて説明すると本一冊くらいの文量になってしまいますので重要なポイントに絞ります。それが記事を読んだ読者を納得させる、説得することです。
記事を読んで「ふーん」で終わってしまっては意味がありません。記事の内容や目的にもよりますが、特に医療に関する記事であれば読者の役に立たないと意味がありません。そのためには記事の内容に納得してもらう必要があります。そこで求められるのが説得力で、「雲・雨・傘」というテクニックが役に立ちます。
これはコンサルタントが使う基本的な提案・プレゼンテーションのテクニックです。書籍等で読んだことがある人も居るかもしれません。そのまま、クモ・アメ・カサと読みます。その意味は以下の通りです。
「クモが出てきたので、アメが降るかもしれない、だからカサを持っていきましょう」
傘を持っていきましょうという提案が正しい根拠として、雲と雨の話をしているわけです。雲・雨・傘が示すものはそれぞれ以下の通りです。
雲→事実
雨→事実に基づく客観的な予想、解釈
傘→提案、意見、視点、
まずは誰が見ても変わりのない、動かしようのない事実を提示します。その上で事実に基づく客観的な予想や解釈を説明します。事実に基づく、客観的、という部分が重要です。ここは人によって解釈が異なる場合もありますので、新聞であれば両論併記をする場合もあります。
医療はエビデンス=根拠を元に行われるのが原則です。したがって、医療の記事も根拠の無い適当なことを書くと「トンデモ記事」として炎上します。
ネット上には自分自身よりもその分野に詳しい人がいくらでもいる、ということを忘れると酷い目に遭います。炎上して仕事を失うなど書き手が被害を受けるだけならマシな方です。間違ったことを書いて読者に迷惑をかけたり、掲載された媒体が謝罪するような事態に発展したり、医療記事であれば健康被害を生む可能性すらあります。分野を問わず、情報発信をすることは責任の重い仕事であることを理解すべきです。
■「事実と意見」の間には「解釈」がある。
最後は提案、意見、視点になります。これは媒体によっても異なります。新聞の短い記事では意見や提案はなく、雲と雨だけの短い記事もたくさんあります。もっと短い通信社の記事では何が起きたのか事実関係、つまり雲だけを書いて終わりという場合もあります。一行で終わる速報のような記事です。
医療ライターであれば速報記事を書くことはまずないと思いますが、読者の違いや媒体の方向性で記事の難易度やどこまで掘り下げるかが大きく変わります。同じ熱中症を扱う場合でも、経済誌か新聞か料理雑誌かで適切な内容は変わります。こういったメディアごとの特性をトーンとマナー、略してトンマナと言います。
医療分野の特性として、専門家ではない人が意見を長々と書くことはないでしょう。書き手自身が医者や薬剤師といったケースを除けば、解釈から意見や提案までインタビューで構成するために専門家にインタビューをする、あるいは信頼のおける資料やデータを元に記事を構成する、といった書き方になります。
文章の書き方で「事実と意見」を分けて書け、というアドバイスがあります。もっともらしく聞こえますが、このアドバイスは50点くらいで正解ではありません。実際に起きた事実とその人の意見をごちゃまぜに書いたらダメ、というのはもちろん間違ってはいませんが、事実と意見の間には「解釈」があります。これが雲・雨・傘のうち、雨にあたる部分です。
■なぜ?を深掘りする。~池上解説が分かりやすい理由~
読者は専門家ではありません。結論だけを押し付けられても、いくらそれが正しかったところで納得はしません。そこで必要なのが解釈、つまりは「なぜ?」です。
結論に至るまでの話は、なぜ?、経緯、理由、背景、根拠、ストーリーと、表現の仕方はどれでも構いませんが、絶対に必要です。ここをいかに分かりやすく書けるかどうかで、記事の読みやすさ、納得度、説得力が大きく変わります。
ジャーナリストの池上彰さんが「池上解説」と呼ばれるほど解説が上手い理由は、この部分を徹底的に丁寧に行うからです。どこを、どのように、どれくらいの量(テレビなら時間、記事なら文字数)で説明するかによって解説の上手い・下手が決まります。
池上彰さんはNHK時代に週刊こどもニュースで11年もこども向けに分かりやすいニュースの解説をしていました。これが池上解説の原点と言えるわけですが、実際にニュースを見ていたのはこどもではなく大人だったと言います。それくらい分かりやすく解説することのニーズはあるわけです。
■池上解説の秘密は文章の「コントロール」にある。
池上さんは政治・経済などのとっつきにくいニュースをゴールデンタイムの番組で解説していますので、扱うネタが難しいかどうかはハッキリ言ってしまえばほとんど関係ありません。重要なことは分かりやすく解説できるか、それだけです。これは記事を書く場合でも同じです。
もちろん、どこまで解説するか? どれくらい噛み砕くか? という部分も池上さんはコントロールしています。これは書き手も見習うべき点です。ここで言う噛み砕き方は、専門用語をどれくらい使うか、専門知識を持っていることを前提とするかしないか、どれくらい掘り下げるか、といった部分です。
例えばトランプがアメリカの大統領に当選した、という話を池上さんが解説する場合は大統領選挙の仕組みから説明します。日本は大統領制ではありませんから、一般視聴者向けにはそれくらい基礎の基礎から説明した方がいいわけです。他にも、ギリシャが借金だらけでEUが大騒動になっている、というニュースであればEUの加盟国や仕組みから説明します。これもアジアにEUのような仕組みはありませんから、説明する意味はあります。
もちろん、何でもかんでもバカ丁寧に説明して離乳食のように噛み砕けば良いということではありません。前述の通りいかに文章をコントロールするかがライターの腕の見せ所です。
媒体と読者に合わせて解説のレベルをコントロールする……ここまで意識できれば、文章で池上解説を再現することも不可能ではありません。
医療分野の記事はニーズが高いと同時に、命にかかわるという特性からライターに求められる水準も非常に高くなります。ぜひ執筆の際には参考にして頂ければと思います。
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