【医療の職業図鑑】理学療法士

【医療の職業図鑑】理学療法士

2020.07.06 09:00




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医療職の皆さんは『理学療法士』がどのようなお仕事かご存知ですか?

一緒の病院で働いていても、実際にどのような仕事をしているかよく知らない方も多いかもしれません。

 

今回は、理学療法士について、資格取得の過程から、業務内容、働き方、活躍の場まで解説します。

メジャー以外の活躍できる職場も紹介しているので、働き方を見直したい理学療法士の方もぜひご一読ください。

 

 

 

理学療法士とは?

 

理学療法士は、病気やケガ、高齢、障害などによって運動機能が低下した方に対して、運動療法や温熱療法、電気刺激などの物理療法を用いて行われ、「立つ」「座る」「歩く」など日常生活に必要な動作の改善を目的としています。*1

 

理学療法士は「名称独占資格」であり、理学療法士及び作業療法士法の第十七条では“「理学療法士でない者は、理学療法士という名称又は機能療法士その他理学療法士にまぎらわしい名称を使用してはならない」”という規定があります。この第十七条の罰則規定が第二十二条で“「三十万円以下の罰金に処する。」”となっています。

 

また、開業権はないため理学療法士の名称を使用して開業することはできません。

 

理学療法士の名簿登録者数は182,893人です。(日本理学療法士協会調べ 2020年 3月末現在)

 

 

理学療法士を英語で言うと?

英語ではPhysical Therapistといい、略称はPTです。

 

 

 

理学療法士の仕事内容

 

理学療法士は、主に病院や診療所、介護老人保健施設で活躍しています。

 

一般の方や同じ医療業界の方でもリハビリ=マッサージといったイメージを持つ方も多いかもしれません。ですが実際には患者の評価を行い、リハビリプログラムの立案、リハビリプログラムの実施、再評価、リハビリプログラムの継続・修正といったPDCAサイクルをもとにリハビリを進めています。マッサージに見えても、実はどこの筋肉に対してどのようなアプローチが必要なのかを頭の中では考えています。

 

また、他職種との連携も重要で患者の状態が変化した時や、リハビリの効果が不十分な時などに医師・看護師・薬剤師・管理栄養士など様々な職種と連携をとり、患者の回復に努めます。

 

病院や介護老人保健施設以外では、スポーツの現場や行政機関で働く理学療法士など活躍の場は多岐に渡っています。それぞれの環境において求められる能力が変わってきますので、養成校を卒業し資格を取得した後にそれぞれが興味のある分野の専門的な勉強を必要になります。*2

 

 

 

理学療法士の平均年収・給料

 

理学療法士の平均給与は約29万円

 理学療法士の月収と賞与は、2018年 賃金構造基本統計調査(職種DB第1表用)によると、平均年齢32.9歳、平均勤続年数6.1年、所定内労働時間163時間、所定内給与(月給)285,200円、年間賞与662,200円です。*3 これらから、理学療法士の平均年収は4,084,600円となります。

 

 

 

理学療法士になるための要件

 

理学療法士国家試験の受験資格

理学療法士になるためには国家資格の取得が必要です。

 

国家試験を受験するためには、4年制大学、短期大学(3年制)、専門学校(3年制、4年制)、特別支援学校(視覚障害者が対象)に行く方法があります。*4

 

 

理学療法士国家試験の合格率・難易度は?

理学療法士国家試験の合格基準は、一般問題を1問1点(157点満点)、実地問題を1問3点(120点満点)とし、総得点167点以上、実地問題43点以上取ることが基準となります。

 

2020年の理学療法士国家試験の合格率は86.4%であり、過去5年間においては74.1%~90.3%と年によってばらつきがありますが、平均では83.6%となっています。*5

 

理学療法士国家資格取得後、より専門的な知識を身につけるために大学院を目指す方もいます。

また、すでに作業療法士の資格を持っている場合には養成校で2年以上学べば受験資格が得られます。他には、外国の養成校を卒業して外国で資格を取得した場合には、所定の手続きを取り厚生労働大臣の認定を受ければ新たに養成校に入る必要が無いなどの措置もあります。

 

 

 

理学療法士になるための費用・期間

 

大学に通って理学療法士になるための期間と費用

大学といっても「国立大学」「私立大学」「私立短期大学」などの選択肢があります。

国立大学の場合:4年制。年間約60万円

私立大学の場合:4年制。年間約135~200万円

私立短期大学の場合:3年制。年間約140~170万円

 

 

専門学校に通って理学療法士になるための期間と費用

専門学校では、学校によって在学期間が異なります。専門学校の大きなメリットとして、4年制大学に比べて比較的学費が安いことが挙げられます。平均的な学費としては以下のとおりです。

 

4年制専門学校の場合:年間約100~175万円

3年制専門学校の場合:年間約115~170万円

 

 

働きながら学校に通うこともできる夜間部

学校によっては夜間部を開設しているところもあります。

 

夜間部は昼間働いて、仕事を続けながら学校に通うことが出来ます。授業は18:00~21:00で行っているところが多く、学費も授業数が少ない分、年間で10~20万円ほど安くなっています

 

 

社会人入試制度を設けている学校もある

学校によっては社会人入試制度を設けている学校もあります。夜間部と共通する部分もありますが、授業を昼間に行っている学校もあります。入学試験は、小論文、面接、適性検査などが行われています。

 

 

ダブルライセンスを持っている理学療法士は多い?

理学療法士の中にはダブルライセンスを持っている療法士もいます。理由は様々ですが、理学療法士としてスキルアップのために資格を取る方や、理学療法士としての視点をもとに別の資格を取る方もいます。

 

理学療法士の資格を取得後、医者を目指すケースもあります。他には、柔道整復師や看護師、作業療法士、アスレティックトレーナーなど様々です。ですが、国家資格のダブルライセンスを持つセラピストはあまり多くないのが現状です。

 

 

 

理学療法士が活躍できる職場・働き方

 

理学療法士の働き方 

理学療法士の働き方は、一般的には、医療機関や介護福祉施設等での勤務(常勤・パート)が主流です。

 

1つの職場に縛られずに、より柔軟に活躍したい方は、専門知識を活かして、スポーツトレーナーなどフリーランスとして活躍することも可能です。

繰り返しになりますが、理学療法士に開業権はありませんが、整体院のような形態で開業することは可能です。

 

それでは、ここから理学療法士が活躍できる職場をご紹介していきます。

 

 

理学療法士が活躍できる職場  

 

〇医療施設

高度急性期病院

早ければ手術中から介入することもあり、刻々と変化する病態に対応する能力が求められます。患者の入院期間は数日から2ヶ月程度です。

 

急性期病院

急性期から慢性期の患者がいるため幅広い能力が求められます。入院期間も数日から数ヶ月と幅広いのが特徴です。

 

回復期病棟

主に脳血管疾患や脊髄損傷、頸部骨折の患者が入院されています。自宅復帰のために多職種連携が欠かせません。

 

 

〇医療福祉中間施設

介護老人保健施設

病態が安定している方が多いため、能力の維持・改善が中心になります。在宅復帰や自宅で安全に生活できるためのリハビリが求められます。

 

訪問リハビリ

利用者の自宅に行き、在宅で安全に生活するための提案や、動作指導などが必要です。職場によっては病院勤務などに比べ、給料が高めの職場もあります。

 

 

〇老人福祉施設

養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、有料老人ホームなど

対象の方は、病状は安定していても自宅での生活が難しい方が多いため、寝たきりにならないような介入やアイディアが必要になります。

 

 

〇介護保険法関連施設

地域包括支援センター

地域包括ケアシステム(住まい、医療、介護、予防、生活支援が相互に関係しながら一体的に提供されるシステム)において地域の課題を明確にするために理学療法士が配属されていることがあります。

 

 

〇身体障がい者福祉施設

身体障がい者療護施設、身体障がい者福祉センターなど

単なる機能回復訓練ではなく、潜在する能力を最大限に発揮させ、日常生活の活動を高め、家庭や社会への参加を可能にし、その自立を促すリハビリが求められます。

 

 

〇児童福祉施設

肢体不自由児施設、重症心身障がい児施設など

肢体不自由児に対して、身体機能低下の予防、介護量軽減、介護予防に向けた取り組みを行なっていくことが必要です。

 

 

〇教育・研究施設

養成校教員、研究施設など

大学や専門学校などにおける教員です。教員を行いながら非常勤などで現場に介入する理学療法士もいます。

 

 

〇行政機関

市町村、保健センター、社会福祉協議会など

行政機関で働く理学療法士は、「多職種連携によるネットワークづくり」や「行政施策の情報配信」などネットワークを構築する能力が求められます。

 

 

〇健康産業

スポーツ関連施設など

スポーツ選手のケアやトレーニングのアドバイスを行ったりします。より専門的な知識や技術を必要とし、スポーツ関連の仕事を希望する理学療法士は多いのですが、就職先が少ないのが現状です。

 

〇開業、フリーランス

理学療法士に開業権はありませんが、整体院のような形での開業は可能です。開業での安定した収入を得るのは困難ですが、成功すれば高収入も夢ではありません。また、ごく少数ですが海外で活躍する理学療法士もいます。

 

 

 

まとめ 理学療法士のやりがい

 

理学療法士としてのやりがいは、何といっても「人の役に立つこと」です。患者にとって病気やケガによって、それまで出来ていた「当たり前のことが出来なくなる」ということは、想像以上に辛く苦しいものです。理学療法士が関わることで「出来なくなってしまったこと」「出来なかったこと」「出来るようになった!」ということは何物にも代え難い喜びです。

 

そのためには、正確に患者の状態を評価し、リハビリの内容を検討することが重要です。その結果、患者から「ありがとう」「あなたのおかげで良くなったよ」と言われた時に、大きな達成感と生きがいを感じます。逆にうまくいかなかった時は、「どうしてだろう?」「どうすれば良くなるだろう?」と考えなければいけません。そういった意味では、生涯勉強が必要な職業とも言えます。

 

また、国家資格なので給料は安定していますが、平均勤続年数は6.1年と比較的転職する方が多いのも特徴かもしれません。*3

その理由は給与面や人間関係、キャリア・アップなど様々ですが、就職先の選択肢も多様化しているので自分に合った職場選びがしやすく、ワーク・ライフバランスに合わせられるのもメリットです。

 

現在は求人数も多いので転職しやすい職種ですが(地域による)、2040年には理学療法士の需要に対して供給は1.5倍になると推測されています。*6

 

このような現状もありますが、理学療法士という職業は、患者と共に考え、悩み、ゴールを目指す職業です。「人の役に立ちたい」「人の為になる仕事をしたい」という方には最高の仕事と言えるでしょう。

 

 

 

【参考】

*1 日本理学療法士協会HP「理学療法士とは」

http://www.japanpt.or.jp/general/pt/physicaltherapy/

*2 日本理学療法士協会HP「統計情報」

http://www.japanpt.or.jp/about/data/statistics/

 

*3「賃金構造基本統計調査」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

*4 日本理学療法士協会HP「理学療法士になるには」

http://www.japanpt.or.jp/general/aim/physicaltherapist/

*5 厚生労働省「第55回理学療法士国家試験及び第55回作業療法士国家試験の合格発表について」

https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2020/siken08_09/about.html

*6厚生労働省「理学療法士・作業療法士の需給推計について」

https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/000499144.pdf

 

引用

厚生労働省 理学療法士及び作業療法士法(昭和四十年六月二十九日法律第百三十七号)

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000168998.pdf

 

ライター  川本啓太 理学療法士

 

 

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