【認定医・専門医の職業図鑑ー歯科】口腔外科
2020.08.07 09:00
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今回は、歯科の認定医・専門医の1つである口腔外科専門医・認定医に関して、口腔外科歯科医ライターが解説します。
口腔外科に関心のある歯科医師、それだけでなく歯科や医科に携わる方でも、口腔外科の理解が深まります。
口腔外科専門医とは?
口腔外科専門医とは、(社)日本口腔外科学会によって口腔外科に関する専門的知識と豊富な診療経験を備えていると認定された歯科医師、もしくは医師のことです。
2020年5月29日現在、日本には2135名の口腔外科専門医がいます。
口腔外科認定医とは?専門医との違い
口腔外科専門医とは別に、口腔外科認定医という資格があります。
こちらは、口腔外科専門医を目指す口腔外科医が専門医資格を取得する中間目標として設けられた認定資格です。
口腔外科専門医になるためには、まず口腔外科認定医にならなければなりません。
2020年5月29日現在、全国に2586名の口腔外科認定医がいます。
口腔外科専門医の取得方法(2020年)
口腔外科学会の専門医は、(社)日本口腔外科学会が認定機関となっており、『書類審査』『筆記試験』『口頭試問』『手術実施審査』を経て認定されます。
手術実施審査をしている専門医認定制度はあまりなく、これはなかなかの難易度と言えるでしょう。
第一段階である書類審査を受けるための要件は、同学会により以下のように定められています。*1
①日本国の歯科医師または医師免許証を有志、良識ある人格を有する者
ーつまり、口腔外科学会の専門医は歯科医師に限らず、医師も申請可能です。
②歯科医師または医師免許登録後、6年以上継続して本学会会員であること
ー歯科医師や医師なら誰でも申請できるわけではなく、少なくとも口腔外科学会に6年以上加入していなければなりません。
③口腔外科認定医であること
ー口腔外科専門医になるためには、まず口腔外科認定医になる必要があります。
④歯科医師又は医師免許登録後、本学会の定める研修カリキュラムに従い、研修施設又は准研修施設において、通算6年以上,口腔外科に関する診療に従事していること
ー口腔外科学会が指定する研修指定病院などで、6年以上にわたって診療経験を積まなければなりません。
⑤別に定める研修実績、診療実績及び論文業績を有すること
ー口腔外科学会が指定する疾患の診療実績数をクリアしなければなりません。
*研修実績
口腔外科学に関する学術論文3篇以上の発表、うち1篇は口腔外科学会雑誌に掲載されていること、そして筆頭論者として日本口腔外科学会雑誌などに掲載されていること
*診療実績
診査・診断症例報告書:炎症・嚢胞・腫瘍・外傷・顎関節疾患などの症例レポート10例
口腔外科手術:執刀手術100症例(手術難易度区分表に基づき、40例以上のレベルⅡを含む)
入院症例:担当医として手術難易度表の各分野から50例以上
口腔外科症例の管理・診断:規定された症例から合計10例以上
この書類審査を経て初めて筆記試験や口頭試問などに進むことができます。
なお、口腔外科学会の専門医の認定審査料は40,000円(税込)で、申請書類の受付期間は年に一回、4月1日~4月30日、筆記試験や口頭試問は7月です。
口腔外科学会専門医の更新要件
写真:Canvaより
口腔外科学会の専門医資格は5年おきに更新する必要があります。
有効期限の前年の12月1日~25日が受付期間となっており、更新の前年の5月ごろに更新の案内が郵送されます。
更新要件は以下のとおりです。
*学術大会や支部学術集会への参加や発表による100単位以上の研修実績
*口腔外科学会や関連学会が主催する教育研修会への参加による20単位以上の研修実績
口腔外科学会専門医が取得できる研修施設(2020年)
写真:Canvaより
口腔外科学会の専門医の取得ができる研修施設は、2019年10月1日現在、日本全国に301施設あります。
東京や大阪などの大都市圏に多く、地方になると少ないようです。
大学医学部附属病院の口腔外科や歯科大学附属病院の口腔外科、地域の基幹病院などの総合病院がほとんどです。
クリニックは、1施設のみとなっています。*2
研修施設は、口腔外科学会により以下のように条件が定められています。
①口腔外科疾患全般を対象とする施設であること
ー一般的な歯科医院ではなく、大学病院や病院歯科がほとんどです。
②研修カリキュラムに定められた口腔外科手術の件数をクリア
ー単に口腔外科を標榜しているのではなく、一定数の口腔外科手術を行なっている必要があります。
③指導医が1名以上常勤し、十分な指導体制がとられている
ー口腔外科学会の指導医からの指導が受けられる施設でなければなりません。
④口腔外科全般の研修が受けられる
ー口腔外科の様々な症例が経験できる施設ということです。
⑤研修教育行事の開催が恒常的に行われていること
ー口腔外科関連の研修や指導がきっちりと行われているということです。
口腔外科学会専門医が取得できる準研修施設
研修施設に準ずる研修施設として、口腔外科学会は準研修施設を認定しています。
準研修施設とは、診療実績や研究実績では研修施設に劣るものの、専門医や認定医を養成できる施設のことです。
準研修施設は2019年10月1日現在で全国に273施設あります。
数件のクリニックを除き、総合病院の口腔外科がほとんどです。
やはり東京や大阪などの大都市圏ほど多い傾向があります。
準研修施設は、研修施設と異なり、大学病院の口腔外科はありません。
準研修施設は、研修施設より条件が軽減され、以下のように定められています。
①口腔外科疾患を対象とする施設であること
ーこの点は、研修施設と同じ条件です。
②指導医または専門医のもとに、研修カリキュラムに定められた口腔外科の研修が可能であること
ー指導医だけでなく専門医でも可とし、口腔外科の手術ではなく、口腔外科の研修と緩和されています。
③研修教育行事の開催が恒常的に行われていること
ーこの点も研修施設と同じです。
口腔外科専門医取得のメリット
口腔外科学会の口腔外科専門医を取得すると、歯科クリニックの看板に口腔外科専門医と表示できます。
実は、歯科クリニックの看板には何でも書いて良いというわけではありません。
標榜できる内容については、医療法によって制限が加えられています。
例えば、診療科名については、『歯科』『歯科口腔外科』『小児歯科』『矯正歯科』のみ掲げることができます。
歯周病やインプラントを重点的にしたいからといって、看板に『歯周病科』『インプラント科』などと書いてはいけないのです。
同様にさまざまな学会が専門医や認定医制度を実施していますが、全ての専門医や認定医を看板に表示できるわけではないのです。
その点で、口腔外科学会専門医なら、平成15年から厚生労働省から広告の認可が下りているので、問題なく標榜できます。
また、口腔外科専門医を取得する過程で、さまざまな口腔外科疾患の診療経験を口腔外科の指導医のもとで積むことができます。
これは一般の歯科クリニックでは経験できないことです。
例えば、歯科クリニックではかなりレアな症例であっても、大学病院ならレアでもないということはよくあります。
入院下だけでなく外来での手術経験や、他の歯科クリニックで抜歯した人の術後出血の対処経験、基礎疾患のある方の診療経験などから、どこまでなら歯科クリニックでも対応可能で、どこから大学病院や総合病院に依頼したほうがいいかなども自ずと判断できるようになります。
もし、あなたが開業志向がある方であっても、口腔外科専門医の取得過程で得た経験は大変貴重な糧となることでしょう。
口腔外科専門医取得のコスト
口腔外科学会専門医は、『国際口腔顎顔面外科学会・アジア口腔顎顔面外科学会』に加入することが義務とされています。
デメリットとしては、5年ごとの更新費用の負担に加えて、この国際口腔顎顔面外科学会・アジア口腔顎顔面外科学会の年会費などが重ねて必要となることでしょう。
専門医資格を持っているからといって、診療報酬が上がるわけではありませんから、ご自身の収入が増すことはありません。
つまり、収入に直結しない反面、専門医の資格を維持するために定期的に費用が生じることがデメリットといえます。
口腔外科専門医が活躍できる職場や働き方
口腔外科学会専門医が活躍できる職場は、大学病院や総合病院の歯科口腔外科です。
歯科クリニックでは、全身麻酔が必要とされるような顎変形症や外傷、悪性腫瘍などの口腔外科手術はできません。
外来で行える小手術であっても、歯科クリニックでは人員や設備の関係で行い難いものも多くあります。
大学病院や総合病院の歯科口腔外科なら、全身麻酔に対応した手術設備も備えられていますし、外来で行えるような小手術も幅広く行えます。
口腔外科学会の専門医を持っているなら、歯科クリニックよりも大学病院や総合病院の歯科口腔外科の方が活躍できるといえるでしょう。
口腔外科専門医を活かせる働き方としては、やはり大学病院や総合病院での口腔外科医として勤務することですが、残念ながら募集はあまりありません。
常勤での勤務が難しい場合は、非常勤医として仕事するのもいいでしょう。
口腔外科専門医のやりがい
写真:Canvaより
口腔外科専門医のやりがいは沢山ありますが、中でも1番にあげられるのは、一般の歯科医師が敬遠するような難症例でも自分の手で処置できるようになることです。それは、入院下でなければできないような全身麻酔下での手術症例などに限った話ではありません。
外来で行う埋伏智歯抜歯や嚢胞摘出手術、唾石の摘出術などもそうですし、外傷での骨折症例も症状によっては外来で手術することも可能です。
こうした治療の技術を持っていれば、開業したとしても患者さんを他医療施設に紹介することなく自分自身の手で治療できます。
「あそこの歯科医院なら、〇〇病院に紹介せずに、歯を抜いてくれる」「交通事故で受診したけど、抜けた歯まできれいに治してくれた」など評判が立てば、それこそ口腔外科専門医の冥利に尽きることでしょう。
次にあげられるのは、あまり想像したくありませんが、診療中に患者さんの身に何かしらのトラブルが発生したときに、冷静に対処できる技術が身につくことです。
たとえば、「下顎の埋伏智歯を抜歯している最中、根尖が舌側に入り込んでしまった」、「上顎の抜歯をしていると、上顎洞内に歯が入り込んでしまった」などの偶発症から、血圧が急に下がったなどの全身的なトラブルまで、さまざまなアクシデントが起こりえます。
そのようなときにも冷静に対応できるようになります。
アクシデントへの対応技術は、何も口腔外科専門医だけがもつスキルではありませんが、大学病院や総合病院では、歯科クリニックから紹介された難症例の抜歯、重篤な基礎疾患がある患者さんの治療など一般の歯科クリニックでは経験できないことをたくさん経験できます。
人は初めて遭遇する事態にはなかなか対応しにくいものですが、一度経験すると次から冷静に対応できるようになるものです。
自信を持って日常診療に当たれるのも、口腔外科専門医のやりがいと言えるでしょう。
参考・引用
*1 公益社団法人日本口腔外科学会専門医制度施行細則
https://www.jsoms.or.jp/medical/wp-content/uploads/2015/08/senmon-i_sikou-saisoku20181101.pdf
*2 公益社団法人日本口腔外科学会認定「研修施設」一覧 (都道府県・認定番号順)301施設(2019年10月1日現在)
https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/kenshu_shisetu_2019_10.pdf
ライター 抜歯屋 21年目歯科医師(口腔外科)
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