【医療の職業図鑑】言語聴覚士
2020.07.20 07:18
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医療職の皆さんは『言語聴覚士』がどのようなお仕事かご存知ですか?
一緒の病院で働いていても、実際にどのような仕事をしているか、よく知らない方も多いかも知れません。
今回は、言語聴覚士について、資格取得の過程から、業務内容、働き方、活躍の場まで解説します。
活躍できる場所も幅広く紹介しているので、働き方を見直したい言語聴覚士の方もぜひご一読ください。
言語聴覚士とは?
言語聴覚士とは、話す、聞く、食べる、のスペシャリストです。
言語聴覚士法には
“音声機能、言語機能又は聴覚に障害のある者についてその機能の維持向上を図るため、言語訓練その他の訓練、これに必要な検査及び助言、指導その他の 援助を行うことを業とする者”
と定義されています。*1
簡単に説明すると、言葉によるコミュニケーションや摂食・嚥下に問題がある方に専門的サービスを提供し、自分らしい生活を構築できるよう支援する職種になります。
大きく分けて次のような領域があります。
・失語・高次能機能障害領域
・摂食嚥下障害領域
・言語発達障害領域(小児)
・聴覚障害領域
・成人発声発語障害領域
現在の言語聴覚士の名簿登録数は3万2863人です。
(2019年3月末 日本言語聴覚士協会HPより)*2
毎年1,500名程度が言語聴覚士となっています。
言語聴覚士を英語で言うと?
言語聴覚士は英語で Speech-Language-Hearing Therapist といい、略称はSTです。
言語聴覚士の仕事内容
言語聴覚士は、主に「コミュニケーション」と「食べること」についての問題に対応する職種です。
言葉によるコミュニケーションの問題は失語症、聴覚障害、言葉の発達の遅れ、声や発音の障害など多岐に渡り、小児から高齢者まで幅広く現れます。
言語聴覚士はこのような問題の対処法を見出すために検査・評価を実施し、必要に応じて訓練、指導、助言、その他の援助を行います。
さらに医師や歯科医師の指示のもと、嚥下訓練や人工内耳の調整等も行います。
また医療機関だけではなく、保健・福祉機関、教育機関などの領域でも活躍しています。
言語聴覚士の平均年収
令和元年賃金構造基本調査 職種第3表 職種・性、年齢階級、経験年数別所定ない給与額及び年間賞与その他特別給付額によると、
言語聴覚士(女性)は所定内給与額265,900円、年間賞与その他特別給与額635,500円です。
言語聴覚士の平均年収(男女)は約390万円です。*3
言語聴覚士になるための要件
言語聴覚士になるには、法律に定められた教育課程を経て国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受ける必要があります。
試験は毎年3月に行われ、合格率は50~60%台で推移しています。*4 *5
言語聴覚士になる方法・期間・費用
言語聴覚士の受験資格を得るためのルートは以下のようになります。
高校卒業者の場合は、
1.文部科学大臣が指定する学校(3~4年制の大学・短大)
2.都道府県知事が指定する言語聴覚士養成所(3~4年制の専修学校)
のいずれかを卒業することで受験資格が得られます。
一般の4年制大学卒業者の場合は、
1.指定された大学・大学院の専攻科
2.専修(専門)学校(2年制)
のいずれかを卒業することで受験資格が得られます。
以上が一般的なコースですが、言語聴覚士の養成に関わる一定基準の科目をすでに習得している者を対象とした指定校(1年制)もあります。
また、外国で言語聴覚士に関する学業を修めた者の場合は、厚生労働大臣の認定が得られれば受験資格が取得できます。
言語聴覚士になる費用・学費
言語聴覚士になるための費用・学費は学校の種類により異なり、以下のようになります。
高卒者の場合:4年・公立約260万円 私立約500~650万円・全国に27校
4年大卒者の場合:専攻科2年・約260~330万円・全国に3校
※保健医療学部や健康科学部など学部名は様々ですが、「言語聴覚学科」や「言語聴覚学専攻」が多い。中には教育学部幼児教育学科などでも履修可能な場合がある。
専門学校 高卒者の場合:3~4年・約400~500万円・全国に25校
4年大卒者の場合:2年・国立約90万円 私立約200~300万円・全国に26校
短大 4年代卒者の場合:3年・約500万円・全国に1校
通信 なし
夜間 4年大卒者対象:2年・約300~350万円・全国に3校
大学院
4年大卒業者対象:2年・約250万円・全国に1校
※資格取得の身を目指すのではなく、将来的に臨床研究を行う事(修士の取得)を目的としている。
言語聴覚士と教育訓練給付制度について
社会人が働きながら、もしくはいったん離職してST資格取得を目指す場合、教育訓練給付制度(専門実践教育訓練)を利用できる場合があります。
一定の条件を満たすことで教育訓練経費(入学金・授業料)の一部が支給されますが、細かい受給要件があるのでハローワークでの確認が必要です。*6
言語聴覚士が活躍できる職場・働き方
言語聴覚士の働き方
STの職能団体である日本言語聴覚士協会の会員17,890人中、常勤者が79.2%、非常勤者が4.8%となっています。*5
【勤務】
・医療機関(病院)
日本言語聴覚士協会会員の90%以上が組織に所属して働いており、そのうち74%が医療機関となっています。*7
近年は新人教育に重点を置く医療機関も増えてきています。あらかじめプログラムが組まれ、新人でも安心して臨床現場に出られるようなサポートが用意されている場合もあります。
医療機関は組織の規模が大きく福利厚生も整っていることが多いため、職員寮の利用ができたり各種休暇が取得しやすかったりするなどのメリットもあります。STは女性が多い職種ですが、医療機関では託児所が併設されていることもあり、出産後の復職率も高くなっています。
その反面、現在は年中無休でリハビリを提供する医療機関が増えてきており、「土日祝日休み」の病院は少なくなってきています。
STが配置されている病院の内訳としては、入院施設のある急性期・回復期・リハビリテーション専門病院が多くなっています。小児科・耳鼻咽喉科・歯科でのSTの配置は都市部では多くなってきましたが、地方では一部の公立病院・総合病院を除くとかなり少ないのが現状です。
・老健/特養/福祉/教育
医療機関以外では、老健や特養などの高齢者施設、障害児者の療育・福祉施設、学校教育やST養成、研究機関などに勤務することがあります。収入や福利厚生はそれぞれの組織に準じます。
老健や特養では医療機関と同様にSTとしての業務を行いますが、治療や訓練のみではなく、入所者や利用者の生活場面の介助も業務に含まれる場合があります。たいていの施設ではSTの人数も少ないため、その場で先輩STに指導してもらう、同僚STと相談する、といったことが難しい場合もあります。
【フリーランス】
STの仕事の大半を占める内容が医療や療育など治療にかかわる内容であるため、フリーランスとして働く人は多くはありません。
ただし言語聴覚士法 には、
”医師又は歯科医師の指示の下に、嚥下訓練及び人工内耳の調整等の行為を行うこと”
という記述がある一方、
“その業務を行うに当たっては、医師、歯科医師その他の医療関係者との緊密な連携を図り、適正な医療の確保に努めなければならない”
という一文があります。*1
これは「言語訓練」「構音訓練」については医師の指示なしにST単独で行うことができるということであり、同じリハビリ職種である理学療法士と作業療法士とは異なる点でもあります。
そのため完全に自費診療の言語訓練・構音訓練の施設を開業したり、個人で契約をして訓練を実施したりすることは法律上は可能です。
失語症のクリニックで治療を行う、STや福祉・教育スタッフ向けにセミナーを行うなどといった形で活躍している人もいます。
しかし当然ですが、STとしての確実な知識と技術はもちろんのこと、人材管理や運営方法などの勉強も必要不可欠となってきます。軌道に乗れば平均年収以上も望めますが、収入の基盤を固めるまでに何年も要する場合もあります。
言語聴覚士が活躍できる職場
・医療施設:病院
大学病院、総合病院、専門病院、小児科、耳鼻咽喉科、歯科、リハビリテーションセンター、地域医院、診療所など
治療の一環としてリハビリテーションを行います。常に医療スタッフとの連携を図りながら全身状態の回復に合わせて機能評価を行い、症状に合った訓練を実施していきます。
・老健(介護老人保健施設)・特養(特別養護老人ホーム)
介護が必要な方たちが入所もしくは通所し、機能の維持と回復を図る施設です。介護スタッフと協力しながら言語・理解力・判断力の訓練、食べる機能の維持向上の訓練を行います。
・福祉
老人福祉施設、肢体不自由児施設、重症心身障害児施設、療育センターなど
高齢者や重度障害児者を対象に訓練を行います。状態の維持を図るリハビリや、残存機能を引き出しコミュニケーション能力や食べる力を獲得する方法を探っていきます。
・教育機関
小中学校、特別支援学校、研究施設、言語聴覚士教育施設(大学、短大、専門学校)など
STに加えて教員免許も持つ人が特別支援学級の教員としてコミュニケーションや聞こえに障がいをかかえる子どもたちのサポートしています。
・フリーランス
開業して失語症のクリニックやボイストレーニングセンターを運営する、STや医療教育関係者を対象としたセミナーを開催したり、訓練教材の作成と販売を行うこともあります。
まとめ 言語聴覚士のやりがい
「話す」「聞く」「食べる」、これらは誰にとっても大切な能力です。
生まれつき、あるいは病気や怪我によって失われてしまったこの能力を、医療・福祉の他職種と協力してサポートしていくのが言語聴覚士の仕事です。
症状によっては向き合うのが非常に苦しく、難しいこともあります。
それでも、たった1つでも言葉を発するのを聞けたとき、混乱の中にいた人がこちらの伝えたいことを理解してくれたとき、長い間点滴だけで過ごしていた人が最初のひと口を飲み込めたとき、飛び上がりたいほど嬉しく思うことがあります。
医療の進歩と共に迎えた高齢化、障害児者や子どもたちへの手厚い支援を目指す社会。
言語聴覚士の活躍の場は、これからますます広がっていくのではないでしょうか。
【参考】
*1 言語聴覚士法(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80998053&dataType=0&pageNo=1
*2 一般社団法人 日本言語聴覚士協会「言語聴覚士とは」
https://www.japanslht.or.jp/what/
*3 令和元年賃金構造基本調査
https://www.e-stat.go.jp/stat-s
*4 一般社団法人 日本言語聴覚士協会「言語聴覚士を目指す」
https://www.japanslht.or.jp/aim/
*5 めざせST(言語聴覚士)
*6 教育訓練給付制度(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html
*7 一般社団法人 日本言語聴覚士協会「会員動向」
https://www.japanslht.or.jp/about/trend.html
ライター chibi_neko 言語聴覚士
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