#77 臨床と研究の境界線を越えてーSPHの道に進む歯科医
2024.07.22 10:02
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医療職の方のキャリアや人生に対しての視野を広げるDspace Plusの「のぞき見みんなのキャリア」では、様々な医療職の方をインタビューします。
77回目は、臨床医を経て公衆衛生大学院(以下、SPH:School of Public Health)に進学後、研究職に従事している歯科医師のA先生です。
キャリアと育児の両立などについてお聴きしました。ぜひご一読ください。
A先生
歯学部を卒業後、歯科医院勤務等を経てSPHに進学。現在は子育てをしながら臨床・研究・教育に従事している。趣味は旅行。
ーまずはA先生が歯科医師を目指したきっかけをお教えください。
非常に現実的なのですが、「手に職をつけた方が良い」と言われ、医療系資格職を考えていました。私自身が幼少期から歯科医院にメインテナンス・矯正で定期通院しており、身近な存在かつポジティブなイメージの職種だったことや自分の性格等を総合的に考え、最終的に歯科医師を選びました。
ーA先生は、現在は、どのようにお仕事されていますか?
フルタイム常勤で働いています。
専門を選んだ理由は色々ありますが、エビデンスの活用と創出、社会実装に近い仕事ができることが大きいです。
働き方を選んだ理由としては、土日休みなこと、仕事の一部は場所を選ばずできるため、持ち帰って家事や子育ての合間にできること、などがあります。
ー歯科医院での勤務経験を経てからSPHの大学院への進学後に研究職に進まれていますが、臨床の経験を経てから研究に進んだことでのメリットなどありましたか?
研修医の時点で就職か院進学か迷っていたのですが、たまたまご縁があり、当初は就職を選びました。ただ、あまりにEBMとは程遠い現場に衝撃を受けたことや、土曜出勤で連休がなく、旅行ができないことに気づき(笑)、退職して進学しました。(研修医時点で検討した分野とは違う分野です。)
今も臨床は続けていますが、日々の臨床から出た疑問が研究テーマに繋がり、臨床へのフィードバックもできることから、臨床経験は非常に重要だと感じています。また、開業医勤務時に経営の視点やチーム医療を学べたことも現在の仕事に生きています。
臨床経験があることでアルバイトや再就職の選択肢も増えるので、生活の安定や、挑戦する際のセーフティーネットという意味でも資格+臨床経験は非常に心強いです。
私の周りには臨床を経て大学院に進み研究職や行政、企業などにキャリアチェンジをした人、逆に大学院を出てから臨床で活躍している人もたくさんいます。遠回りした経験が数年経って役立つことも多々あります。また、岐路では人に導かれることが多く、流れが来た時に身を任せる方がうまく行くことも多いと感じています。一生同じ環境にいることは稀なので、迷った時は楽しそうな方を選ぶ、選択に固執せず、状況が変われば方向転換、結果としてキャリアが繋がっていく、と考えるのも良いのではないかなと思います。
ーなるほど、とても参考になります!
SPHには歯科医師以外の方が多いと思いますが、他業種の同級生との繋がりや交流などで、歯科に対しての見え方や考え方に影響はありましたか?
当初は歯科以外の知識や専門性を身につけたい、狭い歯科の世界を出て何かできないか、と思いSPHに進学したのですが、他業種の方々とディスカッションしてく中で、むしろ医療や公衆衛生という共通の土台の上で歯科という専門性をどう生かすか、どう協働していくか、という考え方に変わりました。
ー外の世界にでると、改めて専門性の視点も変わるのですね。
さて、現在は、育児中とのことですが、どのように研究職と育児を両立されていらっしゃいますか?歯科臨床に主に従事していた頃との違いはありますか?
余程でないと休みや時間休が取りにくかったフルタイム臨床勤務の頃と比べて、自分の時間の使い方にある程度の裁量があるため、子育てとの両立はしやすいと感じています。ただ、臨床・教育は削れないため、どうしても研究時間に皺寄せが来てしまうのが大きな課題です。
ー育児と仕事の両立に関して、現在の研究の働き方ならではのエピソードや感じていることがあれば、お教えください。
事前にスケジュールの調整がつけば、中抜けして子供の対応をしてまた仕事に戻る、などができています。夕刻のオンライン会議などは、送迎の合間にスマホから参加したり、台所でPCを開いて参加することもあります。
ただ、家でも仕事ができる分、プライベートと仕事の境目が曖昧で、今は休む!と割り切らないと気が休まらないです(そして割り切ると仕事が進みません、笑)。
ーお仕事がある日はどのようなスケジュールで生活していらっしゃいますか?
研究職 歯科医師A先生のタイムスケジュール
-
-
AM 6:30
起床、朝食、片付け
子供と自分の準備
-
AM7:45
通勤・通学
-
AM8:15
出勤
日によって臨床・教育・研究・雑務など
-
PM18:00
退勤・学童お迎え
-
PM18:30
帰宅
-
PM19:30
夕食、家事
お風呂、子供の歯磨きなど
-
PM21:00〜21:30
子供の寝かしつけ開始
-
PM22:00
自室に移動、仕事・趣味・寝落ちなどを経て就寝(仕事の状況次第で遅くまで作業、早々に寝落ちるなど、日によって時間は異なる)
-
ー現在キャリアを継続する上で、大変なことと、それに対して工夫している点は何ですか?
残業がほとんどできず、日中は臨床・教育・雑務にかかる時間が大きいので、研究時間の確保が難しいです。かといって持ち帰り連日睡眠を削ると子供に皺寄せが行ってしまうことから、業務の取捨選択、タスク管理を少しずつ進めていっているところです。また、子供が大きくなるまではある程度仕方がないと割り切り、ライフワークのように研究を続けていけたらと思っています。
ープライベートと仕事の両立を実現するために今の医療業界に必要なものは何でしょうか?
フレキシブルな働き方ができるポストが増えればベストですが、医療現場においては難しいと思うので、タスクシェアと少し余剰の人員配置(ができるだけの経営的な余裕)が必要だと思います。
誰かが抜けても仕事が回り、負担が一部の人に偏らない仕組み(負担が重い人には給与やポジションなどで還元でき、状況の変化に応じて負担の重さを変えられる仕組み)ができれば、忙しい中でも休みが取りやすく、両立しやすくなるのではないかと思います。
ー今後の医療業界の動きに期待することをお教えください。
特に大きな組織はまだまだ属人的な業務や無駄な作業、夕刻以降の対面会議などが多いと感じています。表面的な勤務時間を減らすのではなく、タスクシェアを進め、AIやDXの力も借りて実際の業務負担を減らす、真の働き方改革に期待しています。
ーA先生、今回は貴重なお話をご共有いただき誠にありがとうございました!
臨床の経験が後々の研究に活きている実体験は、これからの進学を考える先生方の励みにもなるのではと思います。今後の益々のご活躍を心より応援しております。
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